窓に映る風景

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 ロンドン発、羽田行き。5年ぶりに帰国するぼくは、飛行機の窓からどこまでも広がる雲海を眺めていた。  月光で銀色に照らされた雲の波が翼の下を撫でる。おだやかな洋上を進む船に乗っているかのように揺れもなく、風景も変わらない。 「どくとるマンボウ航海記みたいだな」  さっきまでぼくと同じ歳に読んだ本について語っていた父も、今は隣の席で静かに寝息を立てている。  遠くまで広がる雲の波を雲海って言うけれど、ぼくにはどちらかというと砂漠のように見えた。そう、月の砂漠だ。  もっとよく見ようとして、窓に額をくっつけたとたん、飛行機の壁が消えた。ぼくは思わず驚きの声を上げる。 「なに? えっ、どうして」  気が付くと、ぼくは四つん這いの姿勢で外に投げ出されていた。両手の下には月光を浴びて輝く水晶のような砂が、「ぎゅっ」とぼくの体重を支えていた。  顔を上げれば、どこまでも続く銀色の砂漠があった。
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