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 数日後、私は飛行機で帰る前に霊園に来ていた。お墓の前に来れば、黄色と白の菊が花びらを散らすことなく彩っている。墓前におばあちゃんの好きだったおまんじゅうを置き、手を合わせた。今回はもう戻るけど、年末にはまた帰ってくるからね。  ふと周囲を見回すが、当然墓参りをする人間だけだった。さすがに山に帰ったか、お供え食べちゃダメって言ってしまったし。  ため息をつき、お供えに手を伸ばしたそのとき、ある思惑がよぎる。あの探し物のおまじないは動物にも効果があるのかな。 近くに人がいないか確認し、私はあの言葉を呟きながら墓の隙間を覗き込んだ。 「タヌキがこーけた」  視点が逆になるほど覗き込んだが、タヌキはおらず別の人の墓が見えるだけだった。動物探しに効果はないか、というか大人になっておまじない信じてるとかおかしいよね。  視点を戻し、墓前に目を向ければ先ほどあったはずのおまんじゅうがなくなっていた。もう一度見回すが、やっぱりいない。おまんじゅうを取っていったのはタヌキか、それとも・・・・・・。 「まぁ、どっちでもいいか。またね」  キャリーケースを引きながらお墓に手を振る。背中に温かい視線を感じながら、霊園を後にした。   おわり
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