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 ついに、元凶である自宅に到着する。火傷しそうなほどに日を浴びた瓦屋根に開放された縁側、そして田舎特有の鍵のかかってない引き戸。 私はその引き戸に手をかけ玄関に入っていく。ただいま、と呟くと居間にいた両親が立ち上がった。 「おぅ、やっと帰ってきたか」 「遠くから疲れたでしょ。早く上がりんさい」  母も父も花が咲いたように顔が明るくなった。キャリーケースを玄関の脇に置き、居間へと上がっていく。 「さっそく悪いんだけど、なんか飲んでいい?」  かぶっていたつばの広い帽子で扇ぎながら洗面所へ足を進めた。 「ええよ。それが終わってからでいいから、ばあちゃんに挨拶しんさいね」  そう話す母の視線は仏壇へ向けられている。先祖の白黒写真が並ぶ中、一つだけカラーの写真が置かれていた。でも、今は分かったから、と遮るように台所へ向かった。  冷蔵庫を開ければ、瓶に入った梅干しやタッパーに入った漬物が目に入る。あまりの田舎臭さに麦茶をとってすぐ閉めた。田舎だから当たり前なんだけどさ。コップに勢いよく注ぎ、一気に飲み干す。染み付いた梅干しの匂いが鼻につき、急いで麦茶を冷蔵庫に入れコップをゆすぐ。  そのあと居間に戻り、すぐ隣にある仏壇に向かう。置いてある線香に火をつけると、特有の香りが漂った。嗅ぎ慣れない匂いに顔をしかめながらも香炉に立てる。  そして、手を合わせ、写真立てに入ったカラーの写真を見つめた。外の太陽とは違うお日様のような微笑みを浮かべている祖母だった。  両親は妹につきっきりなことが多く、自分は祖母に相手してもらうことが多かった。おままごとにつきあってくれたり公園へ連れて行ってくれたり、叱られたときは祖母になぐさめられることが多かったな。さすがに、高校生くらいの頃には年相応にボケちゃった部分もあったけど。  楽しかった頃の思い出に浸っていると、母が声をかけてくる。 「お仏壇だけじゃのぅってお墓も行きんさい。戻ったらまたしばらく帰ってこないんでしょ」 「というか今日も帰ってくるつもりはなかったのに、母さんが印鑑送ってくれないから」  愚痴りながら振り返ると、母の手には菊の花と掃除用具一式が握られていた。 「だって、場所分からんもん。ほら、つべこべ言わずにさっさと行ってきんさい」  母に突き出され思わず両手で受け取ってしまう。そして、こちらの言い分は聞かんとばかりに私から離れていった。 渋っても面倒だし行くか。ひとまず花束と掃除用具を玄関に置くと、アームカバーや帽子を身につける。先ほどかいた汗で少しべたついていた。気を引き締めるように息を吐くと、お墓参りの道具一式を持って玄関を出た。
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