プリンに罪はないけれど私はプリンが苦手です

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それは壊れやすいものだとその時まで知らなかった。 自分の身に降りかかるまで知らない世界だから。 もっと言うなら知らなければならない立場になることさえもわかっていなかったと言ったほうが正しいかも知れない。 「こんにちは。来たよ。元気だった?」 奈津子は思いっきりの作り笑顔で入っていく。 本当に私は笑顔を作れているんだろうか、と不安に思いながら。 ここは、奈津子の父親が入所している施設だ。 父親の部屋は、四人部屋だけれど今は三人なんだそうだ。 柔らかい日差しが入り、白いレースのカーテンがそよ風に揺れていた。 白基調の綺麗に整頓された部屋だった。 横になっていた父親はすぐに半身を起こし「あっ」と言った。 以前なら奈津子が行けば大喜びして「お〜」と言って、来てくれた事をとても喜んでくれたものだ。 今は奈津子が行くたびに、父親が自分のことを誰なのか?わかりずらくなっているというのが手に取るようにわかってしまって気持ちが沈んでしまう。 できればここへ来たくないとさえ、親不孝な気持ちが頭の中をかすめる。 壊れていくのは、父親の頭の中にあるたくさんの記憶のページだ。
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