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後日。
警察は竹山くんを事情聴取した。
竹山くんは10年前のあの日、奈々子が暗くなったどんぐり山へ入っていくのを見た。
日頃、奈々子をイジメていた自覚があった竹山くんは奈々子が自殺するつもりでどんぐり山へ入って行ったのだと思い、怖くてそのことを誰にも言えないでいた。
どんぐり山というのは隣町との境に位置する県所有の小さな雑木林だ。
何年か前に、開発して宅地に造成する案が持ち上がったが、反対運動が起きてそのまま放置されている。
「ああ、そうか」
私はその反対運動の理由を調べて納得した。
どんぐり山は希少種の「ホタルノキノコ」が自生する国内でも珍しい場所だったのだ。
ホタルノキノコはいままでに発見例が一桁しかない珍しいキノコで、キノコ好きの間では一生に一度めぐり合いたいと人気のキノコなのだそうだ。
冬、ホタルノキノコは闇の中で美しい蛍光の光を発する。
キノコに詳しかった奈々子は、その光を偶然見かけて、暗い雑木林の中へ一人で踏み込んでいったのではないだろうか。
そして、なんらかの事故に遭い命を落とした。
レアなキノコの自生地ということで、研究者以外の立ち入りは禁止されていたのが災いした。
そのどんぐり山が先日の台風の影響で土砂崩れを起こし、流れた土と一緒に奈々子の遺体は露出したのだ。
死因は特定できないが、自殺でも事件でもないと判断された。
「竹山くんが奈々子を見たとき、奈々子も竹山くんに気付いていたんだね」
自分がどこで眠っていたのか、すっかり忘れてしまった奈々子は竹山くんに訊こうと思ったのだろうか。
「のん気な子ねぇ」
山盛りの唐揚げの皿を奈々子の写真の前にお供えしながら、母は涙をぬぐった。
あの日、母は奈々子からの電話を受けた。
迎えに来てほしい、と言った声はたしかに奈々子だったが、どこへ来て欲しいと言ったのか聞いたはずなのに思い出せなくて、焦りながら何時間も知らない道を走っているところへ地元の警察から電話がかかってきたのだそうだ。
結局、その電話で両親の探し物は見つかることになった。
奈々子の探し物は、本当にもう全部見つかったのだろうか。
まもなく竹山くん家族が奈々子の仏壇にお線香を上げにやってくる。
私はだんだん濃度を増してゆく、黴た朽木の匂いを感じながら、そう考えずにはいられなかった。
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