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「ハシモトさん、あなたの痛み、よくわかります。もしよろしければ、その穴を埋める協力をさせていただけませんか?」
僕は提案をした。
そう、これは提案、なんだ。
「穴を埋める……?」
「ええ。僕があなたを苦しめているその穴を埋めてさしあげます」
僕は最上級の笑みを浮かべた。
「その代わりと言っては何ですが……あなたを食べさせて欲しいのです」
僕は胸の穴を大きく広げた。
穴はハシモトさんを頭から大きく一口で飲み込むと、満足したように少しずつ小さく、やがて消えて行った。
「ハシモトさんの穴は『心の痛み』でしたね。大丈夫、あなたの同僚を同じように僕が一人残らず食べてあげますから。全員食べたら、あなたの心も埋まりますよ、きっと」
だし巻き卵を一切れ、箸でつまむ。口の中にかつおだしの旨味が広がった。
「この私の穴は『食欲』なんです。食べても食べても埋まることのない、貪欲な欲望。大丈夫、約束はきちんと守りますよ」
ぺろりと舌なめずりをする。
「私はあなたのような人を探していたんです。周りから必要とされてない孤独な人を、ね」
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