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ああ、お探ししましたよ。
いえ、あなたではなく、あなたの魂を探していたのです。
7年もかけて血眼で探し、やっと見つけました。
まさか異世界に転生していたとは。
あなたは今、インターネットなるものを使って、小説を読もうとしていましたね。
私はそれを乗っ取り、あなたに語りかけています。
なに? 一生懸命小説を書いた作者が可哀想?
いえいえ、そんなことを気にする必要はありません。
どうせ下手くそな三文小説だったのですから。
おっと、興奮してしまって申し訳ない。
何もわかっていないあなたに、まずは事情を説明しなければ。
私の名前はマチアス・ボードレール。
あなたの叔父であり、こちらの世界にあるリベルタ王国では、王の後継者という立場です。
そして、あなたの名前はロザリア・ボードレール。
リベルタ王国の王女であられます。
おや、ロザリアなどという名前ではないと?
そうでしょうね。
あなたはこちらの世界で亡くなったあと、異世界に転生なさったのですから。
あなたは生まれ変わる前のことを、何も覚えていないのでしょう。
名前も違う、性別だって違うかもしれない。容姿や、価値観や、育った環境、何もかもこちらの世界とは違うことでしょう。
ロザリア王女とあなたが別の人間であることは否定しません。
しかし、それでもあなたは、王女様と同じ魂を持って生まれました。
まぎれもなく王女様の生まれ変わりです。
私はあなたの死後7年に渡り、その魂を探し続けておりました。
なに、あなたは7歳ではない?
ええもちろんわかっています。
私たちの世界とそちらの世界では、時間の流れる速さが違うのです。
こちらで7年経過した間に、あなたは生まれ育ち、15歳になっているかもしれませんし、30歳になっているかもしれません。
そちらの世界の方が、流れる時間が速いのです。
前置きが長くなりましたが、本題に入りましょう。
あなたには、こちらの世界に戻ってきていただきます。
王女様は、16歳でお亡くなりになりました。
その死因は、不幸な事故でした。
ですが、私たちの王国には、どうしても王女様のお命が必要なのです。
王女様の魂は転生されたようですが、体は氷の洞窟の奥で、今も美しいまま眠っておられます。
魂をなくした体は、決して目覚めることがありません。
しかし、この体に魂さえ戻すことができたら、王女様は再び王女様として目覚めるのです。
さて、そちらの世界に転生された王女様。
あなたは今、どのような暮らしをしておられますか。
お屋敷はどの程度の広さで、召使いは何百人いるのでしょう?
今日はどんなドレスをお召しになり、どれほどの宝石を身につけておいでですか?
まさか、平民のような生活をしているのではないでしょうね。
賃金を得るために汗水垂らして働いたり、庶民の家庭料理のように貧相な食事をとっていたり……。
もしそんな暮らしをしているのでしたら、今すぐこちらに戻っておいでなさい。
あの事故さえなければ、あなたは今も豪華な暮らしをしていたはずです。
広い王宮で優雅にときを過ごし、食事は一流のシェフが作るフルコース。
この国で誰よりもきらびやかなドレスを着て、社交界では話題の中心。
それが本来のあなたの姿です。
え、こちらに戻ってきた場合の、今の体ですか?
もちろん、捨てていただきます。
ひとつの魂に体はひとつ。
魂が抜けた体は抜け殻となって、やがては朽ちていくでしょう。
ですが、まさかそのような貧しい暮らしに未練はありませんよね。
平民の血が流れる体などさっさと捨てて、高貴なお体にお戻りください。
再転生の準備はこちらで整えております。
あなたはただ、私の言うとおりにすればよいのです。
今晩0時に――
うわっ! なんだ、お前らは!
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