覚醒遺伝

2/5
前へ
/5ページ
次へ
見渡す限りの、田んぼと畑。生まれてから今までずっと都心で暮らしてきた私には、ここは同じ日本なのかと疑いたくなるような景色が広がっている。 高層ビルが立ち並ぶ都市部よりも、こうした農地や森林のほうが割合としては多いのは知識として知っていても、実際に目の当たりにすると普段暮らしている環境とのギャップで、まるで異世界に来てしまったみたいな感じだ。 「確かこのあたりのはず……」 教えてもらった住所とスマホの地図を頼りにたどり着いた先には、木造の日本家屋が点在する小さな集落。 地図アプリが示す目的地の前まで進んでみたけれど、そこには。 「明らかに人住んでないよね……」 玄関先には雑草が無造作に生え、窓ガラスにはヒビが入り、壁は所々ツタで覆われている。表札もかかっていない。 隣近所に人がいないだろかとキョロキョロしていると、二軒先のお宅で庭の手入れをしているおばあさんが目に入った。 「すみません、あの家に住んでいる人を探しているんですが、何かご存じではありませんか」 「あぁ……あのお宅ね」 眉間にしわを寄せ、苦虫を嚙み潰したような顔をしながら話し始めた。 「あのお宅から、時々狼みたいな鳴き声が聞こえることがあってねぇ。周りの住人が気味悪がって追い出してしまったんだよ。もう5年くらい前になるかねぇ…」 夜逃げのような形でいきなり消息を絶ったので、その後どこに住んでいるのか誰も知らないのではないかとのことだった。 家に帰って事の顛末を父さんと母さんに話したけれど、長いことおばあちゃんと連絡を取っていなかったようで、兄さんの消息は分からずじまい。 それでも私は諦められなかった。一度も会ったことがなくても、人間じゃなくても、血のつながった兄弟なんだから。 どうにか手がかりが掴めないかとダメ元で人狼や狼について調べていると、狼を祀っている神社があるということが分かって、藁にもすがる思いでその神社に行ってみることにした。
/5ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加