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大きな鳥居の両サイドに陣取るのは、狛犬……ではなく狛狼。
荘厳な本殿はいかにも神社という感じだけれど、その横ではかわいらしい狼が描かれたお守りや絵馬が売られていて、やっぱり普通の神社とは少し雰囲気が違う。
「狼は山の神の使いとして信仰されていて、狼の語源は大神から来ていると言われています。今でも狼信仰が残っている地域もあるんですよ」
「へぇー。なんだか狼に対するイメージが変わりました」
神主さんに狼を祀るこの神社について聞きたいとお願いしたところ、快く教えてくれた。
狼に詳しいのは間違いなさそう。……なんだけど、人狼について聞くのはちょっと勇気がいる。でも、今のところ他に手がかりはない。
「あの、ちょっと変なことを聞いてもいいですか?」
「なんでしょう?」
「生き別れの兄が、人狼なんです。どうしても会いたくて、探しているんですが消息がつかめなくて。こんなこと、信じてもらえないですよね……」
「いいえ、信じますとも」
神主さんは穏やかな表情を崩さないまま、お見せしたいものがありますと、書庫のような場所に案内された。
そこで見せられたのは、色褪せて茶色くなった紙の束。墨で文字が書かれているけれど、漢字を崩したような文字で全く読めない。
「ここには、狼と人間がまぐわったという記録が残されています」
「え!?そんなことがあったんですか」
「ごく一部の地域では、神と崇められた狼との子を宿そうとする試みがあったようです。千年以上昔の話ですが」
「でも、きっとそんなこと実現しませんよね?」
「それが、成功した例があるようなのです。その子孫が現代に存在していても、おかしい話ではありません」
すごいことを知ってしまった。下手したら、私の遠いご先祖様かもしれないんだ。
「この言い伝えは、西日本のとある山岳地帯のものです。私は訪れたことはありませんが、狼信仰が根強く残る集落があると聞いています」
「その場所、教えてください」
やっと掴めた手がかり。確証はないけれど、行ってみるしかない。
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