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「どういうことなのか、ちゃんと説明してよね」
ダイニングテーブルの上には、私が取り寄せた戸籍謄本。それを挟むようにして私の正面に座る、父さんと母さん。
父さんはバツが悪そうに母さんと顔を見合わせると、息を一つ着いた後しずかに話し始めた。
「悠月、黙っていてすまなかった。いつか話すべきだと思っていながら、なかなか切り出せなかったんだ」
「本当に、ごめんなさいね」
「で、この悠真って人は私の兄弟ってことだよね?私が間違って戸籍謄本取り寄せなかったらいつまで黙ってるつもりだったのよ……」
戸籍謄本に記された『早川悠真』という文字の上をトントンと指で叩きながら問い詰める。そこには私と同じ生年月日の、会ったことのない知らない人物の氏名が記載されていた。
パスポート申請のために提出する書類は戸籍抄本でよかったみたいなんだけど、私が間違えて謄本を取り寄せたために発覚したのだ。
父さんは本当にすまない、と平謝りしながら続けた。
「悠月には双子の兄さんがいるんだ。そこに記載されている悠真は、双子の兄さんだよ」
まぁ書類を普通に読み解けばそうなるよね。生年月日が同じなんだから。問題なのは……
「じゃあ兄さんは今どこにいるの?自分に兄弟がいるなんて、私知らなかったよ」
「わかったわかった。全部話すから。落ち着いて聞いてくれ」
兄さんの存在を隠されていたショックと苛立ちが混ざって、つい語気を強めてしまう私を諭すように話を続ける。
「悠真はな、人狼なんだ」
「じんろう……?」
「狼男と言ったほうが分かりやすいかな?」
あまりに突拍子もない説明に唖然としてしまう。
「父さん、私を馬鹿にしてるの?19歳の大人にそんなデタラメ通用すると思ってる?」
「全部真実だ。どうか最後まで話を聞いてほしい」
いつもの優しい父さんと違う、こちらに訴えかけるような真剣な眼差し。
「――わかった」
それから聞かされた話は、私の想像を遥かに超えていた。
双子として生まれた兄さんと私。母さんは、出産直後の兄さんを抱いた瞬間に、兄さんが人狼だと悟ったという。
「母さんのお母さん、悠月のおばあちゃんもね、人狼だったのよ。人狼って少し独特の匂いがするんだけど、悠真を初めて抱いた時にその匂いがしたの」
母さんは、兄さんが人狼として生まれたことをおばあちゃんに相談して引き取ってもらうことにしたそうだ。
人間である両親が、人狼と人間の双子を育てていくのは困難だと判断したのだ。
「本当に心苦しい決断だったわ。けれど、人間とは勝手の違う彼を、人間の手だけで育てるのは無理があったの」
兄さんが自らの性質をコントロールできるようにすること、そして私や周りの人間の安全を確保すること。
これら複数の条件を全てクリアするためには、人狼であるおばあちゃんの元で育てるほか選択肢がなかったんだ。
「父さんと母さんは二人とも人間なのに、どうして兄さんが人狼になっちゃったんだろう」
「隔世遺伝かもしれないな。祖父母が持っている遺伝的な性質が子には発現せずに、孫の代になって発現することは珍しくはないからね」
望んで人狼になったわけじゃないのに、両親から引き離されて隠されるように生きてきた兄さんを思うと、申し訳なさと悔しさで心がぐちゃぐちゃになる。
「私、兄さんに会いに行く。兄さんはどこに住んでるの?おばあちゃんと一緒なんだよね?」
止めても聞かないと悟ったのだろう。母さんの実家である、おばあちゃんの家の住所を教えてくれた。
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