0人が本棚に入れています
本棚に追加
「ほんとうに久しぶりだよな」
俺はそう言い、ビールジョッキをぐいとかたむけ一気に飲み干した。
「もう20年になるか、大学を卒業して以来だもんなぁ」
彼はそう言うと焼酎の入ったグラスに浮いている氷を指でつついた。
それを見て俺はふふっと笑い
「おまえのそのグラスの氷をつつく癖も大学時代から変わらないな」
そう言うと彼もまた笑い、
「君こそ、ビールばっかり飲む酒の好み変わってないな。痛風とか大丈夫なのか?」
「嫌なこと思い出させるなよ、まったく」
前回の健康診断の尿酸値が俺の頭の中を駆け巡ったが、今日ばかりは見て見ぬ振りをすることにした。
「二十年も経つと、だいぶ変わるよなぁ。体もそこかしこにガタが出てくるし」
「そうだよなぁ」
彼はそう言いつつも見る限り、見た目は大学時代とあまり変わってない。
まったく。体重が15キロも増えて、尿酸値やら血糖値にビクビクしながら酒を飲んでいるのは俺だけのようだ。
久しぶりに会った友人と酒を酌み交わしながら話しつつも、俺は話をいつ切り出そうか迷っていた。
そして思い切って、口を開いた。
「なぁ、ずっと気になってたんだが・・・おまえいったい今までどこにいたんだ?」
俺がそう尋ねると彼はグラスの氷をつつく手をピタリと止めた。俺は続けて
「おまえ大学卒業してすぐ、音信不通になっちまっただろ?俺ずいぶん探したんだぜ」
彼は黙って聞いている。
「心配したよ、なんか事件にでも巻き込まれたんじゃないかってな。実際は何してたんだ?」
俺がそう言うと彼は
「連絡つかないのも当然だろう」
そう言いながら俺の目をじっと見つめ
「僕はもう死んでいたからね」
彼はそう言うと、焼酎を一口飲んだ。
俺は正直驚いた。彼はあまりこんな冗談を言うタイプではなかった。
なので俺は笑いながら
「やっぱりおまえもだいぶ変わったな。そんな雑な冗談を言うなんて」
俺が笑い飛ばそうとすると、彼は
「やっぱりにわかには信じられないか?」
と真面目な顔で聞いてきた。
「いきなり死んでたって言われてもなぁ。おまえまさか変な宗教にでもはまったのか?」
「それなら聞くけど、この店にいつ来たのか覚えてるか?君と僕でいつから飲みだしたか、始まりを覚えてるか?」
私はハッと息を飲んだ。
覚えていない。なにも。
俺はいつこの店に入ったんだ?彼といつから酒を飲んでいる?
分からない。気付いたらいつの間にか彼と酒を飲んでいた。
あり得ない。酒は飲んだが、まだほろ酔い程度だ。記憶をなくすほどじゃない。ましてや20年ぶりに友人と再会したというのに。
‥‥再会?
俺はいつ彼と再会したんだ?
それすらも覚えていないなんて絶対におかしい。
俺が絶句していると、彼は口を開き
「気付いたようだね、ここはね。死んだ人と、生きている人が会える場所なんだ。それももう終わりに近いみたいだ」
私が顔を上げると
「さぁ、そろそろ閉店だ。久しぶりに君に会えて本当によかったよ。」
彼はそう言うと立ち上がり、くるりと振り返り歩いて行った。
私は声が出なかった。しかし何か言わなければと一言しぼりだした。
「また会えるかな?」
そう言うと彼は顔を俺の方に向け、
「今度会ったら天国の話を聞かせてやるよ」
そういうと友人は光の中へ消えていった。
気が付くと、俺は一人で夜の中にいた。友人とよく飲んだ店の跡地だった。
最初のコメントを投稿しよう!