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「なにそのチラシ?」
帰宅ラッシュ真っ最中な駅前のロータリーで、くりくりとした目により、丸夫の左手を射抜こうと企む由佳。
「な、なんでもないぞ」
いかにもなにかありそうな返答をしてしまう丸夫。
「な、なぁ、今度の休みさぁ、カラオケ行かないか?」
「なんで?」
汗だくになりながら、話題を変えようと試みる丸夫の頬に、タヌキのような鼻を押し付ける由佳。
「そ、その、由佳とカラオケって行ったことなかったなーって思って」
大根役者も鼻で笑うような棒読みの丸夫。
「そっか……わかった! よーし……一週間後を楽しみにしててね! メロメロダンスで丸ちゃんをウキウキさせてあげる!」
酔っ払った中年サラリーマンのような動きで、道行く人々を翻弄する由佳。
「お、おう! 楽しみだ」
そう言うと、丸夫は"縁結びのカラオケボックス"と書かれたチラシを、くしゃくしゃに握りしめ、オレンジ色に染め上げられた空を見上げた。
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