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遭難
昔々、丹後の国の漁村に、浦島太郎という美しい青年がいた。裕福な網元である浦家の長男で、家業の手伝いをしながら何不自由なく暮らしていた。
島太郎は洒落者で和歌や雅楽を愛し、何より無類の女好き。ところが、口説き落としてしまった女には見向きもしない。
「ごめん。君は運命の女ではなかった」
毎回まったく同じ言葉を、悪びれることもなく島太郎は口にするのだった。
ある日、島太郎はひとりで漁に出た。
「こんなところに、潮流はないはずだが」
沖に出てすぐに、舟は激しい潮流に飲まれた。必死で櫓を漕ぐが、舟はみるみる陸から遠ざかっていく。
島太郎は疲れ果て、潮流に舟を任せた。三日経つと食料も水も尽きた。釣竿には魚一匹かからない。
「もう体を動かすのもつらい。俺はこのまま死ぬのかな」
ゴトン。
急に物音がした。振り向くと、いつのまにかカメがいた。甲羅には五色の美しい模様がある。
「なんだ。カメか。この世で最後に見たものがカメとは、なんだか冴えないなあ」
カメの甲羅の五色の模様がぐるぐると回り、島太郎は意識を失った。
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