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後半になるとようやく落ち着いてテーブルに就いて、飲み物や食べ物にありつく。とは言っても哉多の方は当然食欲旺盛な様子だが。こっちはやはり今ひとつ料理に手が伸びない。
わたしの様子にいち早く気づいた哉多が取り皿とカトラリーを片手に寄せて、もう片方の手でこちらの肩を突っついた。
「お前なぁ。こんな会場の隅っこで目立たないようにわざわざ引っ込んでるくせに、人当たりか?普段山奥に引きこもってるからいつまで経っても人慣れしないんだよ。ただでさえちっこくてがりがりで胸もろくにないのに、これじゃ育たないぞ。ほら、適当に盛ってやるから。とにかく食って栄養つけて。もうひと声成長しないとな」
「う…、でも。食べきれなくて残しちゃうと。作った人に悪いし。食べ物にも申し訳ないから…」
今日のパーティーの規模からしてわたしや澤野さんの手には負えないから、もちろん有名レストランの出張ケータリングサービスだ。
華やかで豪奢で、ふんだんに山盛りにされた色鮮やかな料理がずらっと並ぶさまを見てると多分美味しいんだろうなぁ、と頭では理解できる。だけど食欲がからっきし身体の奥から湧いてこない。
奴はテーブルの端に自分の皿をひとまず置き、遠慮なくぐいぐいと人波に割り込んでいってわたしの分の皿にも適当に料理を盛り始めた。
「こんな時にも食材と料理人への感謝か。お前ほんと、育ちがいいな。あ違った、育ちのせいじゃないか。人がよくて素直なんだよ思うに。だけどこれだけあるんだから、もう最初から余ること前提の量作ってあるんだって。それより手許に美味しそうなものあれば、匂いにつられて多少は食欲も出るだろ」
「うーん。…そうかなぁ…」
どうしてそんなに他人に食べさせようとするんだ。ひとのことなんて構わず自分がただ食べたいもの自由に食べてればいいだけなのに、と半分鬱陶しく思いながらも好意と配慮からなんだろうな。と無碍には出来ずその皿を受け取った。
とりあえずさっぱりしててこれならいけそう。とシーフードのマリネをフォークで突いているとふわ、と間近に明るい空気が広がった気がした。何の気なしにそちらに顔を向けてちょっと強張る。
新郎新婦が招待客に順番に挨拶して回ってるんだ。明るい太陽の光の下に純白のウエディングドレス。まるで光源みたいに輝いているので、顔を伏せていても気配に気づく。
わたしたちから少し離れたところに固まっていたのは新婦の友人の集団らしく、ちょっとテンションの上がった状態ではしゃいで彼女に次々と声をかけている。
「よかったねぇ呉羽!これぞって人が現れるのを長年待ちに待った甲斐があったじゃない。妥協せずに落ち着いて腰を据えてた結果の粘り勝ちってとこね。いやそれにしてもすっごい、想像以上にほんとに素敵なひとねぇ。ずっと見てられる、こんな綺麗な男の人…」
満更お世辞でもない様子でひたすら感嘆しているうっとりした声が耳に届く。別の女性の声が興奮気味にその上に重なった。
「こんな男の人が二次元じゃなく現実に存在してたなんてね。ねぇ、柘彦さんて。芸能界に興味とかないの?今からでもその気になれば絶対俳優とかモデルになれますよ。勿体ない、ここまで完璧な美形なのに。世間に知られずにいるの」
「この容姿で高学歴の会社役員でいらっしゃるし。青年実業家ってことよね?それでいて名家の跡継ぎで、先祖代々受け継がれた素敵な洋館で悠々自適に暮らしてるんだものねぇ…。あーあ、わたしにも。こんな宝くじクラスの破格な大当たりの男性が突然目の前に現れたらもう何にも言うことないのに」
きゃあきゃあ盛り上がる声の中に全く柘彦さんらしき男性の声はかけらも紛れていない。まあそうか、こんな状況で。割り込んでまで口を挟めるようなタイプの人じゃない。そこまで世馴れてるだろうとは奥さんの方も期待してはいないだろうし。
呉羽さんのはっきり通る凛とした声がざわつくその場を不意に制した。
「わたしの旦那様を褒めて頂いてありがとう。でも、こんな特別な男性はそうそう日本に何人もいるとは思えないかな。わたしはたまたま運がよかっただけ、この人に選んでもらえて。…こんなに素敵な柘彦さんの伴侶として相応しい妻になるために。これからも一層努力していこうって心に決めたの」
明らかに気安い友達とわかる口調で誰かがはしゃぎ気味に突っ込みを入れた。
「よく言う。内心では自分ほど柘彦さんと釣り合う女は世界中探してもいるわけないって思ってるくせに。…大学始まって以来の才媛で資産家のお嬢さまで、しかもやり手の実業家。おまけにこの美貌だもんねぇ。あー、わたしも自分に釣り合うレベルでいいから。ぴったりな誰かにそろそろ巡り会えたらなぁ…」
「あんたなら別に余裕でしょ。こないだ話してたあの同僚のひとだって…」
わっと盛り上がる笑いに紛れて、側で片耳で聞いてるこちらからは話の進む先が行方不明になる。
わたしの隣で哉多がちょっと閉口したみたいに肩をすぼめた。
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