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呉羽さんはともかく柘彦さんがいつものその音に気づかないはずないし。そしたらノマドのことをそのまま放ってはおかないかもしれない。
奥さんがどう言おうともこういう習慣なんだ。と主張してとにかく部屋には入れてくれるかもしれないし。
いざ入れれば呉羽さんだって別に鬼ってわけじゃないだろうから。可愛い猫に気をよくして一緒に二人であの子を可愛がって、部屋の隅で眠るくらいは大目に見てくれるかも…。
だけど、そんなわたしの希望的観測はもちろんあっさり打ち砕かれた。
ノマドがかりかりとドアの表面を引っかいて、しきりににゃあにゃあ声をあげても扉が開く気配は全くない。わたしはいても立ってもいられず、足音を忍ばせてびくびくしながらそっとノマドの方へと近づいた。
ドアの前についたところで突然内側から開きませんように。とひたすら祈りつつ暴れる猫を背後から持ち上げる。
『ノマド。…もう行こう。わかったでしょ、ね?今日は…。無理だよ』
でも、明日以降も。…多分無理、かな。
わたしは彼女が腕の中からしい抜け出ないようしっかりとその身体をホールドして、足早に階段を目指して歩き出す。恨めしい顔つきでにゃあ、とひと声鳴いたノマドをきゅっと抱きしめて頬を寄せた。…あったかい。
「大丈夫、ノマド。あんただけじゃない。…わたしもいるよ、ここに」
階段に差し掛かり、足を踏み入れる前にちらと廊下を振り仰いだ。
彼の部屋のドアは相変わらず固く閉じられていて。最後まで微塵も開く気配はなかった。
《第9話に続く》
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