うなじの記憶

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よくマンガなんかで、満員電車で痴漢にあった女の子が助けてもらった男の子と恋に落ちる、なんて話しがあるけど、それはあくまでマンガの世界でのこと。現実は痴漢にあっても誰も助けてなんてくれない。誰にも見えない死角の中で好きなように尻を揉まれ、そのおぞましい感触に耐えるだけなんだ。たとえ近くの人が気づいたとしても、被害者が男じゃ助けてなんてくれない。助けてくれないどころか・・・。 「あ・・・ぁ・・・」 思わず漏れてしまった声を慌てて唇を噛み締めて押し殺す。 別の手が前のファフナーを下げて中に入ってきたのだ。 満員電車の一番痴漢に遭いやすいというドア横の角で僕は、そこの手すりを握りしめて必死にその感触に耐えている。 好きでこの場所に来た訳じゃない。乗客に押されて気づいたらここまで流されてきていた。 もしかしてわざとここに・・・? そう思ってももう遅い。 完全に死角になったそこで僕は尻を揉まれ、下ろしたファフナーの隙間から入ってきた手に直接前を握られている。 「・・・う・・・ぅぅ・・・」 前の手は大胆に直に握った僕のそれをゆっくり上下に扱き始め、僕は漏れそうになる声を必死に抑えた。小刻みに震える僕の身体に後ろの手も大胆に動き始め、それまで揉むだけだったその手はズボンの上から後孔を指で押し始めた。緩急をつけ、電車の揺れに合わせて突きつけられるその指は次第に深くなりだし、ついに布越しに少し押し入ってきた。その間も前を扱かれ、嫌だと思っても感じてしまうそこはすでに勃ち上がり、ヌメヌメとした液を流している。 「ふっ・・・ん・・・っ」 もうダメ・・・。 そう思った時、電車は駅に到着した。開いたのは反対側のドアだったけど、僕は声を上げた。 「・・・降ります!」 思いのほか大きく出た声に驚いたのか、二本の手はさっと引っ込められ、僕は恥ずかしい状態になった前をカバンで隠しながら急いで電車を降りた。けれど一度限界まで昂った熱はなかなか冷めず、僕はそのままトイレへと向かって個室に入ろうとした。その瞬間、後ろから誰かに押されてそのままドアが閉められた。 一瞬何が起こったのか分からない。誰かが後ろから僕を抱え込み、僕を壁に押し付ける。そして耳元に息がかかった。 「そんな顔して急いで降りるから何があったのかと思ったら、ここをこんなにして、いけない子だね」 そう言うとベルトを緩めてボタンを外すとそのまま手を入れて、僕の昂りをそっと握った。 「きれいなお姉さんの胸でも当たった?それともいけない大人にいたずらされたのかな?」 『いたずらされた』という言葉に一瞬身体がびくつく。すると耳元でその人は声もなく笑った。 「いたずらされたんだ。それでこんなになってるの?いけない子だね。ここを触ってくれるなら、誰でもいいの?」 そう言うとその人はゆっくり手を上下に動かし始めた。 「あ・・・っ・・・」 思わず漏れる声にまた耳元で笑われる。 「外に聞こえちゃうよ。それとも聞かす?」 その言葉に僕は慌てて唇を噛んだ。 狭い個室の中で僕は後ろから男に抱きこまれながら壁に手をやり、その男の手淫に声を殺して悶えている。 そして・・・。 ん・・・んん・・・ぅん・・・っ・・・。 僕はあっという間に極め、男の手の中に白濁を吐き出した。 「いっぱい出たね。ダメだよ、若い子は溜め込んじゃ」 そう言うと脱力した僕の腰を支えながら器用にトイレットペーパーで手を拭うと、僕の前も清めて衣服を整えてくれた。 「時間は間に合うけど、君はここで休んでいくといい。担任には遅刻って言っておくから」 そう言うとその男は蓋を下ろした便座に僕を座らせてそのまま個室から出て行った。 僕はその背中を呆然と見送りながら、とりあえずトイレのドアを閉める。 ・・・何が起こった? そして・・・誰? 20代後半くらいでスーツを着ていた。見た目はかなりのイケメン。背も高い。 いい匂いがした・・・。 僕を抱きしめる腕と包み込むいい香り、そして僕を高みに追い上げたあの手・・・。 まだ胸がどきどきしてる。 あれは誰? 知ってる人? 担任に言っておくって言ってた・・・。 あまりの非日常的な出来事に、僕の頭は固まっしまった。 僕はただいつものように高校に行こうとしていただけなのに・・・。 いつものように朝起きて、いつものように電車に乗って、いつものように学校に向かったはずなのに・・・。 ただ一つ違うのが、電車がいつも乗っているのよりも一本後の電車だったこと。 今朝は途中で道を聞かれて、それに答えていたらいつものに乗れなかったんだ。 だけど、たった一本違うだけで何でこうなるの? それとも今日は特別運が悪かったの? 朝から痴漢に遭って、知らない男に抜かれたなんて・・・! 僕はトイレの個室で頭を抱えた。
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