艶夢百物語(第1夜~第10夜)      作・可愛 勇

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第4夜  街の夏祭りに縁日を出した。駅から神社までの約700mの道路の両側や境内に1000店の露店が並ぶ。私たちの店は駅前の百貨店の前にテントを張り、手造りのアクセサリーや版画、文芸部の同人誌を売った。川野美登里が手伝いに来ている。  美登里との仲は、彼女の処女を奪った男を私が殺害した後、元に戻った。以前のことを思い出すと腹が立つが、既に美登里との体の関係を持ち、週1回は継続しているので、男への憎しみも忘れた。だが私には、この女と結婚しようという意思はない。  タバコを吸いたいと思ったが、ライターの火が点かない。ここでは火を点けるにはいつも苦労する。新しいライターを求めるために美登里に店を任せ、買いに行くことにした。ところがどこを探してもタバコやライターを売っている店がない。タコ焼き屋や水飴屋、チョコバナナ屋、綿菓子屋などが並ぶだけだ。駅の反対側にも回るが、あったはずのコンビニもない。どこに消えたのだろう。  店を探して路地に迷い込む。ここはどこだ?人に聞くと日本橋であると言う。そんな馬鹿な。道路は狭く人一人がやっと通れるぐらいである。回りはバラックのような建物が建ち並ぶ。画廊街らしく、どの店も下手な絵画を並べている。画廊の中も壁に挟まれた狭い通路を歩かされる。ある画廊では作品の新聞記事を並べている。そう言えば、私も個展を何回か開いた。その記事がないかと探すがない。 「いつ頃の話ですか」 「昨年か、いや30年ぐらい前かも知れない」  年数の記憶など曖昧だ。なにしろ時空は昔も今もすべて重なっている。  ある画廊に入る。某著名作家の作品を掲げている。一巡して帰ろうとすると、画廊主に呼び止められた。 「どうだ、この着物」  あの著名作家の作品の柄で着物を作ったと言う。面白くもなんともない。 「似合ってますよ」  お世辞言葉を残して去る。  この迷路街から抜け出さねばならない。いくつかの角を曲がる。道を尋ねるとこの先が日本橋通りであると言う。その通りに出る。巨大な蛇らしき生物が道路の端から端まで寝そべっている。頭も尾も見えず、脈打つように太い胴が蠢いている。なんだこいつは。ともかく逃げなくては。再び路地に隠れ込む。  だが、巨大蛇は追ってくる。追い詰められた私は壁に貼り着く。蛇はその通路をすり抜けていく様に見えた。が、壁をよじ登り始める。次の瞬間、私は女性のヴァギナのように赤く開いた口に頭から呑みこまれた。 「あなたは私の子宮の中に納まるのよ」 「お前は誰だ!?」 それは美登里だと察した。私は美登里の子宮の中で小さな胎児となっていた。 (第15夜へ)
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