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第3夜
高校で数学のテストがあった。この教師のテストには、正規の問題に加えてボーナス問題が付く。賛否はあるのだが、俺には面白い。
今日の問題は、「ある飲料会社のプロモーションCMで、淡い透明の赤色のドリンク(ワイン)にストロベリー(ピンク)・ブルーベリー(黒)・豆乳(白)のうち、どれを加えればいいか」という設問。数学とは全く関係ないのだが、普通の回答なら±ゼロ、ベストアンサーに+10点、バッドアンサーはマイナス5点だと言う。
成績の発表は教師の屁理屈の独壇場である。これが工夫されていて人気がある。まず1位から3位までの点数のみが発表された。誰かは判らないものの、今までの成績から、ほぼ予測が付くが、ボーナスポイントで順位が容易に入れ替わる。
1位88点。2位87点。3位74点である。ボーナス点を加算する前の点数であるが、この差ならばボーナス点で入れ替わる範囲である。1位は数学が得意なY、2位が俺のライバルのI、大きく離されて3位に俺と予測したが、発表されるまで判らない。
隣の席の女子生徒が俺に小声で訊ねてきた。
「何と回答したの?」
「文句なく『白』だよ。『黒』は嫌いだ。黒いゴミ袋に入れられて捨てられたことがある」
「私はピンクよ」
「女の子なら当然だよ」
教師が何やら訳の判らない図を描いて説明を始める。二次曲線や相関曲線までは判るが、円錐曲線や楕円曲線、サイクロイド曲線、カージオイド曲線、対数螺旋と言われても、そんな幾何学は習っていず、全く理解不能である。
「で、それを判り易く表現した、正解の映像がこれだ」
黒板に裕治郎・リル子主演の映画『夜霧よ今夜も・・・・』の一部が写し出される。教室内がざわめいた。黒い背景に置かれたワイングラスに赤い透明の液体が入っている。そこに白い液体が注ぎ込まれ、グラスの下に溜まる。
実際の映画にそういうシーンがあったかどうかは判らない。
『夜霧・・・・』は名セリフ「君の瞳に乾杯」でよく知られた『カサブランカ』のリメイクである。洒落た数学教師である。
「つまりな、淡く赤い液体とは女性のことだ。そこに注ぎ込まれるのは白い液体に決まっている」
教師が俺を見てニヤリと笑った。俺も微笑み返してやった。
「判っていたな」「判っていたよ」という暗黙の合図だ。
これは何の授業だ?本筋から離れた内容だから、人気がある。
テストの1位はやはりY。回答色は「ピンク」。常識的回答なのでボーナス加点はゼロ。2位予想のIは「黒」で5点減点されて82点。3位の俺には10点が加算され84点となった。ボーナス問題でライバルを逆転して2位に浮上したことになる。その他クラス全員が「ピンク」であったと言う。
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