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0.労働は幸福だ
「子供のうちに、たくさん勉強しなさい。
大人になって、たくさん労働に努められるように。
”今”を代償に、”未来の幸福”という対価を手に入れるのです。
労働は、やがておとずれる幸福の化身。
すなわち、労働は、幸福そのものなのです」
先生は、僕らに何度もそう言い聞かせた。
「お前たちは私達とは違う。
先生のおかげで、思う存分勉強できる。
きっと私達より、たくさん稼ぐことができる。
将来幸福になれる。
だから、くだらないことに時間を使わず、今のうちにしっかり勉強しなさい」
勉強をサボる子供に、大人たちは口を揃えて、そう言った。
先生や大人の言うことは、きっと正しいのだろう。
だって、僕らに勉強を教えてくれる先生は、村の誰よりもお金を持っている。
上等な服や高価な筆記具、洒落た金縁の丸メガネが、その証拠だ。
たくさん勉強すれば、たくさんお金が稼げる。
たくさんお金を稼げば、将来必ず幸せになれる。
だから僕は、先生のようになりたい。
先生みたいに、かっこいい大人になりたい。
そのためなら、僕は”今”をいくら犠牲にしたって構わない。
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