0.労働は幸福だ

1/1
1人が本棚に入れています
本棚に追加
/52ページ

0.労働は幸福だ

「子供のうちに、たくさん勉強しなさい。 大人になって、たくさん労働に努められるように。 ”今”を代償に、”未来の幸福”という対価を手に入れるのです。 労働は、やがておとずれる幸福の化身。 すなわち、労働は、幸福そのものなのです」 先生は、僕らに何度もそう言い聞かせた。 「お前たちは私達とは違う。 先生のおかげで、思う存分勉強できる。 きっと私達より、たくさん稼ぐことができる。 将来幸福になれる。 だから、くだらないことに時間を使わず、今のうちにしっかり勉強しなさい」 勉強をサボる子供に、大人たちは口を揃えて、そう言った。 先生や大人の言うことは、きっと正しいのだろう。 だって、僕らに勉強を教えてくれる先生は、村の誰よりもお金を持っている。 上等な服や高価な筆記具、洒落た金縁の丸メガネが、その証拠だ。 たくさん勉強すれば、たくさんお金が稼げる。 たくさんお金を稼げば、将来必ず幸せになれる。 だから僕は、先生のようになりたい。 先生みたいに、かっこいい大人になりたい。 そのためなら、僕は”今”をいくら犠牲にしたって構わない。
/52ページ

最初のコメントを投稿しよう!