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もし、この獣が気まぐれを起こしたら。
大きな爪で切り裂かれて、潰されて、あっという間に今日のおやつにされてしまう……。
「君は退屈そうだ。もったいないよ、こんな面白い書物を持っているのに。楽しくないの?」
口の中がからからになって、声が出ない。
ナマケモノは、のんびりと僕を眺めたあと、「ふっ」と笑った。
獣の顔でも、笑われたのがわかった。
「取って食ったりしないよ。私はこの通り、ノロマなんだ。君をつかまえようにも、とうてい追いつけやしないよ」
大きなあくびを吐き出し、口をむにゃむにゃと動かす。
「驚かせて、ごめんね」
書物を僕の足元に丁寧に返すと、そのまま爪を自分の背中に回す。
背中から生えた立派な広葉樹から、鮮やかな橙色の果実をつまんで、ひょいっと口に放りこんだ。
「私は、こいつしか食べないよ。君も食べる?」
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