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聞き慣れた声がした。
顔をあげると、上等な黒いマントを翻し、面長の男の人が、走ってきていた。
金縁丸メガネに、痩せこけた頬、凛々しくて濃い眉。
僕らの先生だ。
「はい、無事、です」
「そうか」
先生は憎々しげに森の奥を睨みつけると、僕の肩を叩いた。
「森に行くのはやめなさい。森には魔物がいる。魔物はヒトを誘惑し、堕落させ、やがては自分らの糧とする。食われてしまうのだ」
言葉を切ると、先生は僕の手元をまじまじと、食い入るように見つめた。
「どこで手に入れた?」
橙色の果実のことだ。
ナマケモノにもらった、と言いて、言葉を僕ぐっと飲み込んだ。
ただならぬ先生の鋭い視線が、僕を押し留めたのだ。
「拾いました」
「そうか、拾ったのか。しかし、拾い食いは、賢いとは言えないな。捨てていきなさい。いいね?」
僕はしぶしぶうなずき、食べかけの果実を地面に転がした。
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