愛する人へ

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祐奈はその週の土曜、長野・愛郷に降り立った。 もちろんお迎えは翔太である。 車の中で祐奈は言った。 「一体どういうことよ? 田んぼも畑地も売っちゃうなんて。農家の矜持ってものはないの?」祐奈は迫った。 「一生、働かなくてもいい金が入るってことだよ」 「御先祖代々の土地でしょ、手放していいの?」 「それは俺の決めたことではない。家族で出した答えなんだ」 「翔太は農業に、誇りを持っていたじゃない!」 「わかったようなこと言うなよ! 祐奈は俺んちが農家だから、結婚してくれなかった、違うか?」 「ま、それは、」 「だろ? 農家の辛さもわかっていながら農業やめるな、なんて勝手な物言いは止めてくれよ」 「ごめん」 「俺は、これで農業ができなくなって清々しい気持ちでもあるんだ」 「そっか。わたしはつい、翔太が悲しんでいるものだと思って心配になって帰ってきたのに」 「・・・そっか。ありがと。まあ悲しいけど、前を向かないと」 「そうだよね」 実家に帰った祐奈。 「そういうことなんだ。ウチだけが反対して居座るわけにもいかない。ここは、スーパーなんかも遠いから、今度の移転先はもうちょっと市街地に近いところを考えている」父・雄三は言った。 「なんかみんなサバサバしてるね、あたしだけ?から回り」と祐奈。 ♪ピコピロピローンー 「あ、ゴメン、RINEの電話だわ」祐奈は電話に出た。 「おう。今頃、悶々としてるんじゃないかと思って。夜、ドライブにでも行かないか?」翔太の声だった。
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