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「もしもし、お母さん? いま翔太から聞いた。買収の件。家はどうするの?」祐奈は電話した。
「あ、そう。翔太くんから? 祐奈には折を見て話そうと思っていたの」と母の瑞希は言った。
「そんな大事なこと、なんですぐに言ってくれないの?」
「祐奈も婚約だの仕事だの忙しいと思って」
「そんなの理由にもならない。で、どうするの立ち退くの? 居座るの?」
「うーん、ウチだけが反対して済む問題じゃないの、ちょうど家も古くなったし、お金もたくさん入るようだから、市街地に引っ越そうとお父さんと決めたの」
「私達の家がなくなるってワケ? 信じられない」
「なくなるわけじゃないわよ、新しくなるの。これも時代の流れよ、祐奈」
「わかった。でもこれには家族会議が必要よ。私、今度の週末、そっちへ戻る!」
「あらそう? なんだか悪いわね。土曜日ね」
風呂から上がった浩一郎に、祐奈は詰め寄った。
「今、友人から電話をもらったの」
「うん」
「あなたの青葉運輸が私の故郷の愛郷に物流拠点を置くって話、知ってる?」
「ああ、会社で耳にしたよ、中部配送センターの建設ね」
「それって、ウチの実家や友人宅がみんな立ち退かなくてはならないらしいの」
「え?! それは知らなかった。祐奈のご実家も移転されるの?」
「そうよ。一体どういうつもりなの?」
「いやあ、僕に言われても・・・ごめんなさいとしか言えないな」
「兎に角、実家のことは放っておけないの。友人も心配だし。今度の土日、長野に行ってくる」
「あ、ああ。なんだか僕のせいみたいで、ゴメン・・・」浩一郎は頭を下げた。
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