54人が本棚に入れています
本棚に追加
祐奈はその週の土曜、長野・愛郷に降り立った。
もちろんお迎えは翔太である。
車の中で祐奈は言った。
「一体どういうことよ? 田んぼも畑地も売っちゃうなんて。農家の矜持ってものはないの?」祐奈は迫った。
「一生、働かなくてもいい金が入るってことだよ」
「御先祖代々の土地でしょ、手放していいの?」
「それは俺の決めたことではない。家族で出した答えなんだ」
「翔太は農業に、誇りを持っていたじゃない!」
「わかったようなこと言うなよ! 祐奈は俺んちが農家だから、結婚してくれなかった、違うか?」
「ま、それは、」
「だろ? 農家の辛さもわかっていながら農業やめるな、なんて勝手な物言いは止めてくれよ」
「ごめん」
「俺は、これで農業ができなくなって清々しい気持ちでもあるんだ」
「そっか。わたしはつい、翔太が悲しんでいるものだと思って心配になって帰ってきたのに」
「・・・そっか。ありがと。まあ悲しいけど、前を向かないと」
「そうだよね」
実家に帰った祐奈。
「そういうことなんだ。ウチだけが反対して居座るわけにもいかない。ここは、スーパーなんかも遠いから、今度の移転先はもうちょっと市街地に近いところを考えている」父・雄三は言った。
「なんかみんなサバサバしてるね、あたしだけ?から回り」と祐奈。
♪ピコピロピローンー
「あ、ゴメン、RINEの電話だわ」祐奈は電話に出た。
「おう。今頃、悶々としてるんじゃないかと思って。夜、ドライブにでも行かないか?」翔太の声だった。
最初のコメントを投稿しよう!