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プロローグ_雨模様に、よみがえる記憶
某日某N区。
小雨が降り注ぐ中を雑踏に紛れて男が一人、N駅改札出口から離れていく。
華奢な体躯とすらりと伸びた手足に似合う、お決まりのジャケットに細身のパンツ姿で、傘を片手に少し進んで一旦歩道の端で止まってから、携帯を耳に寄せる。
「――先輩、駅に着いたんですが…」
『おう、たった今スマホに店名と地図送ったから、辿り着いて来い』
「わかりました」
『懐かしいだろ、その近辺。初めてお前と遊んだとこだよな』
「…そうですね…良い思い出半分、悪い思い出半分、という感じです」
そう返しつつ、青年は辺りの景色を見回した。雨曇りの中、周囲はいつもより暗くなるのが早く、居酒屋やダイニングバーの看板が雨に濡れながら煌々とした光を放っていた。
彼の返答に、電話の向こうの男が苦笑した。
『そだな。でも今のお前にとっちゃあ、さほど危なくはねぇだろ?』
「…まぁ。でもやっぱり苦手ですね。早くお店に着きたいです」
『おー、こっちも楽しみに待ってるよ、お前のこと』
「近くなったらまた連絡します」
『了解』
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