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第1話_名門校の不良(ワル)
約四年前…
都内某S区に位置するT大付属高等学校へ、一台のバイク音が近付く。
学校敷地内に入る直前、裏門近くに店を構える定食屋の駐車スペースへ滑り込み、門から丁度死角になるところにバイクを停め、黒ずくめの男が緩慢な動作でバイクスーツを脱ぐ。
ジャケットの下から現れた制服は目の前の学校のものらしく、裏門を迂回して慣れた所作で脇から滑り込み、手ぶらのまま敷地内へと入っていった。
構内の外れに位置する化学準備室内で、白衣にスーツ姿の教員らしき男が、劇薬入りのガラス瓶がずらりとひしめく薬棚を目の前にゆったりと腰かけ、淹れたてのコーヒーを優雅にすすっていた。
早朝のこの静かなルーティーンを大事にしている彼だったが、にわかに準備室の引き戸が開き、至高のひと時は終了する。
「ふぁ~あ」
頭を掻きながら大きくあくびをし、部屋に侵入してきた先ほどのバイク男は教諭の前を通り過ぎると窓際の椅子へどかっと座り、ひとつ伸びをしてからをしてから肘掛けに腕をもたれた。
「めずらしー。始業前なのにもう来たの?」
カップを置くと、教諭は脚を組んで男へ声をかける。
「んー、特に意味ねぇけど。朝帰りから直行しただけ」
「…よくやる高校生だこと。今年入って何回目?」
呆れた風に息をつく教諭だったが、にじみ出る好奇心は口元の緩みを隠しきれていなかった。
短めの細眉に、高校生という立場にしては派手なスタイルの黒髪に片耳のピアス、着崩した制服の胸元に二連ネックレスという出で立ちのその男子生徒は、視線を合わさないまま、他人事のように興味無さ気な表情をする。
「…もうしばらくねぇよ。今朝切れた」
「え。最近楽しそうにしてたじゃん。なんでまた」
「まぁ色々」
「……」
投げやりに思えるその言動に、教諭は頬杖をつき、眉を少しひそめた。
「…君さぁ、もう少し相手選んで付き合ったら? 年相応のさ」
「んー…」
「他人の恋愛事情をとやかく言うつもりないんだけどね。…君には年下の子も合うと思うんだ」
教諭の口上をぼんやりと聞いていた男子生徒だったが、急ににやりと笑う。
「鹿野ちん、誰か紹介してよ。同窓生とか」
「…悪いけど、僕友人関係は大事にしたいから」
「…けーち。そんなだから彼女できねぇんだよ」
「放っといて。…ちょっと宮島、ここ煙草禁止だからね! 化学準備室でヤニ臭いとか、僕の首飛ぶだけじゃ済まなくなるんだからね!」
「…わーってるって…」
気分に乗じて口にくわえかけた煙草をケースに戻し、宮島 影斗は大きくため息をついた。
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