第8話_顔合わせた三人

3/4
前へ
/63ページ
次へ
蒼矢(ソウヤ)をダイニングチェアに座らせ、影斗(エイト)はここ最近使用履歴のなさそうな広いキッチンに立つ。 「もったいねぇなぁ、良い水場なのに」 「エイト、持ってきたー」 そこへ(レツ)が実家から戻って来て、頂戴してきた卵とコンソメキューブを影斗へ手渡す。 「よくやった。次食器用意してくれっか?」 「了解ー!」 まだ熱が高い蒼矢はぼんやりとした面持ちのまま、賑やかに動き回る男二人を目で追っていた。 影斗の調理は手早く進み、ほどなくしてテーブルに卵粥と、温められた花房家の煮物が並べられる。 蒼矢の目が見開かれ、自然と上半身が器に寄る。 「先輩が作ったんですか…?」 「おう、大した工夫はしてねぇけど、悪くないと思うぜ」 「…いいんですか? こんな…」 「あー、心配すんな。お前んちに眠ってたパック飯と、烈んちの卵くらいしか使ってねぇから」 「そうですか…、では、頂きます」 横でうんうんと頷いている烈を見、納得した蒼矢はゆっくりとお粥を口に運ぶ。 「…美味しいです」 「だろ?」 ぽつりと漏れたその言葉と、わずかにほころんだ表情を見、影斗は満足そうに頬杖をつく。 すると、同じく蒼矢の食事風景を見ていた烈が、やにわに彼の腕を掴み、お粥の盛られたスプーンを自分の口に頬張った。 「!? おいっ…」 「…うめー! 全然簡単そうに作ってたのに、店で出るやつみたいじゃん!!」 さすがに動揺が声に出てしまった影斗だったが、当の烈に絶賛されてしまいそのまま閉口する。 「すげぇ~! ちょ、もう一口…」 が、更に器に顔が近付いたところで蒼矢の手がスプーンから離れ、烈の両耳を手ひどくつまんだ。 「いででででっ!!」 「何してるんだお前は…? 感染す(うつ)るって言っただろ!」 「だってっ…お前が飯食ってそういう顔するのって、うちの母ちゃんの飯食ってる時以外見たことねぇんだもん! だからっ…よっぽど美味いんだと思って、食ってみたくなったんだよ!」 「……」 涙目になりながら耳を押さえる烈の言い訳を聞き、制裁を加えた蒼矢は手を離し、気まずさを取り繕うように座り直した。 「…だからって、俺のスプーンから食べるなよ…自分の持って来いよ」 「いや、マジ悪かった。これはエイトが蒼矢に作ったやつだもんな。…本当すげぇな、エイト料理上手いんだな!」 「…あぁ、まぁな」 二人のやり取りを黙って眺めていた影斗は、満面を笑みを浮かべながら再び賞賛してくる烈に、ニッと笑顔を返した。
/63ページ

最初のコメントを投稿しよう!

40人が本棚に入れています
本棚に追加