40人が本棚に入れています
本棚に追加
蒼矢をダイニングチェアに座らせ、影斗はここ最近使用履歴のなさそうな広いキッチンに立つ。
「もったいねぇなぁ、良い水場なのに」
「エイト、持ってきたー」
そこへ烈が実家から戻って来て、頂戴してきた卵とコンソメキューブを影斗へ手渡す。
「よくやった。次食器用意してくれっか?」
「了解ー!」
まだ熱が高い蒼矢はぼんやりとした面持ちのまま、賑やかに動き回る男二人を目で追っていた。
影斗の調理は手早く進み、ほどなくしてテーブルに卵粥と、温められた花房家の煮物が並べられる。
蒼矢の目が見開かれ、自然と上半身が器に寄る。
「先輩が作ったんですか…?」
「おう、大した工夫はしてねぇけど、悪くないと思うぜ」
「…いいんですか? こんな…」
「あー、心配すんな。お前んちに眠ってたパック飯と、烈んちの卵くらいしか使ってねぇから」
「そうですか…、では、頂きます」
横でうんうんと頷いている烈を見、納得した蒼矢はゆっくりとお粥を口に運ぶ。
「…美味しいです」
「だろ?」
ぽつりと漏れたその言葉と、わずかにほころんだ表情を見、影斗は満足そうに頬杖をつく。
すると、同じく蒼矢の食事風景を見ていた烈が、やにわに彼の腕を掴み、お粥の盛られたスプーンを自分の口に頬張った。
「!? おいっ…」
「…うめー! 全然簡単そうに作ってたのに、店で出るやつみたいじゃん!!」
さすがに動揺が声に出てしまった影斗だったが、当の烈に絶賛されてしまいそのまま閉口する。
「すげぇ~! ちょ、もう一口…」
が、更に器に顔が近付いたところで蒼矢の手がスプーンから離れ、烈の両耳を手ひどくつまんだ。
「いででででっ!!」
「何してるんだお前は…? 感染するって言っただろ!」
「だってっ…お前が飯食ってそういう顔するのって、うちの母ちゃんの飯食ってる時以外見たことねぇんだもん! だからっ…よっぽど美味いんだと思って、食ってみたくなったんだよ!」
「……」
涙目になりながら耳を押さえる烈の言い訳を聞き、制裁を加えた蒼矢は手を離し、気まずさを取り繕うように座り直した。
「…だからって、俺のスプーンから食べるなよ…自分の持って来いよ」
「いや、マジ悪かった。これはエイトが蒼矢に作ったやつだもんな。…本当すげぇな、エイト料理上手いんだな!」
「…あぁ、まぁな」
二人のやり取りを黙って眺めていた影斗は、満面を笑みを浮かべながら再び賞賛してくる烈に、ニッと笑顔を返した。
最初のコメントを投稿しよう!