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食後ゆっくり休むように蒼矢に伝え、今度はきちんと戸締りをしてもらい、影斗と烈は帰路につく。
影斗はバイクを転がし、烈の家までふたりで歩いていくことにする。
「――さっき、出会って10年とか言ってたけどさ。すげーな、ずっと続いてて」
「あぁ…うんまぁ、一緒に遊んでとか顔合わせてとかってなると、そんなに長い付き合いじゃないかもしれねぇけど」
「中学まで一緒だったの?」
「いや、小学校まで。六年の三学期になって"私立行く"とか突然言うからビビったよね。…蒼矢の奴、そういう肝心なこと全然言わねぇんだよな。だから文句の一つでも言ってやりたかったけど、あいつが勉強頑張ってたことも知ってたから…"わかった"としか返せなかったよ」
烈は、思い出を回顧しているのか、上を向きながら独り言のように当時を振り返る。
「蒼矢んち、母ちゃんは海外だし父ちゃんもあんまり家にいなくて、ほとんどいっつも一人なんだよね。…俺はそういうの耐えられないから、中学あがっても花房家にいつでも飯食いに来ていいってだけは言っといたんだ。したらホントに、そういう時くらいしか顔合わせられなくなっちまったなー」
「電話とかは?」
「俺らどっちも携帯持ってねぇのよ。しかも俺の方は家電ってか、商売用のしかないからさ、使い辛くって…」
「なるほどね」
「…学校違うくらいどうってことないと思ってたけど…やっぱ痛いな、生活時間全然わかんなくなっちまうし。登下校で会えたらラッキー、遊ぶ約束取りつけられたらミラクルって感じかな!」
明るく話すもどこか寂しげな表情も見せる烈だったが、影斗の中で何かが引っかかる。
「さっきっから聞いてると"お前が蒼矢に"って風だけど、あいつから誘うとかはねぇの?」
そんな影斗の素朴な疑問に、烈はあぁと気付いたように視線を合わせるが、首をひねってみせた。
「…それは難しいなー…あいつそもそも出歩くタイプじゃなくてさ。普段から勉強ばっかりで…まぁそれは蒼矢の父ちゃんが厳しいってのもあるんだけど」
「ふぅん」
「でも、本で読んだこととか沢山教えてくれるし、そういう話してる時はいつも楽しそうだし、本当は色々やりたいこととか興味あることがあるのかもしれねぇな」
「でも、本だけで終わっちまってると」
「んー、突っ込んでは聞いてないけどね。でも、あんまり自由に生きれてない気がするんだよなー」
「…そっか」
などと会話を交わしていると、ほどなくして花房家の酒屋に着く。
「!? マジ近いな!」
「だろ? 今度ウチにも来てよ、なんなら酒買いに来て! 父ちゃんの趣味で珍しいのも置いてるから、親父さんに是非!」
「おー、そうだな、来るわ!」
自分の分ならいざ知らず、父親に買っていくことは無いだろうと思いながらも、影斗は快諾して烈と分かれた。
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