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放課後、影斗は帰りがけにさっさと着替え、先に待ち合わせのカフェ内でスタンバイする。
蒼矢の家から最寄りの駅を指定したため、ほどなくして一旦帰宅した蒼矢が店に入ってくる。
「…お待たせしました」
そう、どこか遠慮がちに自分の前に立つ蒼矢を、影斗は上から下まで眺めた。
「…お前…、着替えて来いっつったじゃん」
「!? 着替えました」
「いや、わかるよ? わかるけどさ、それじゃ制服と変わらんじゃん」
「そう言われましても、いつもこれですから」
ボタンを襟元まできっちり留めた無地の襟シャツに黒いパンツと靴という、期待を裏切らない格好で現れた蒼矢にため息をもらしつつ、影斗は持ってきた大きめのトートバッグを肩にかけて立ち上がる。
「ちょっと来い」
「え…えっ?」
そしていつぞやと同じように、意図を理解できてない蒼矢を引きずりながら、レストルームへ向かう。
困惑顔で突っ立つ蒼矢を傍に置き、影斗はトートバッグに入れてきた衣服を吟味し始める。彼が地味コーデで来るだろうと見越して、自分が過去に着ていた服をいくつか持ってきていたのだ。
インナーのタンクトップを見せるようシャツを全開にし、裾もパンツから出して上から薄手のカーディガンを羽織らせる。
確認したら脚が綺麗だったので、短め丈のパンツに履き替えさせ、ロールアップする。
ついでに髪型にも若干手を加え、額を見せるスタイルに仕上げる。
影斗は全身のバランスを遠目から確認し、最後に眼鏡を外して自分のVネックに掛けた。
「完璧! いいねぇ、似合ってるよ。サイズどうかなーと思ったけど、大体OKだな!」
満足気にうなずく影斗に、蒼矢は憮然とした表情で返す。
「先輩…俺で遊ばないで下さい」
「失敬な、こっちは真剣だ。お前という素材を最大限に活かせるコーデにしたつもりだぜ?」
「…なんだか落ち着かないんですが…あと、眼鏡返して下さい」
「ダメ。今日は一日それでいろ。無くてもある程度は見えんだろ?」
「…はい」
不服そうな表情を浮かべる蒼矢を連れ、影斗はカフェをあとにした。
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