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ふたりは駅から電車に乗り、目的地のN駅へ向かう。
車内に入った途端、雑多に配置している人々の目が一気にふたりに集まった。若干混雑していた車内の空気が一変し、影斗は視線に刺されるような感覚におそわれる。
自分を見る目も確かに感じたが、ほとんどの行き先は蒼矢だった。電車に乗るまでの駅構内やホームでもそうだったが、尋常じゃないほどの視線が蒼矢に注がれている。
…やり過ぎたか…?
影斗は内心、先ほどノリノリでコーディネートした自分を反省していた。
単純な容姿の美しさもあっただろうが、影斗がユニセックス風に仕立てあげたため、蒼矢のビジュアルは余計に性別が判りにくくなっていた。中にはそこを探るような好奇に満ちた目も混ざっていて、顔以外にも剥き出しになった脚や胸元に、焼けつくような目線が集まっている。
「……」
影斗はさりげなく彼をドアポケットへ誘導し、乗客らからの視線を遮るように横に立ってあげた。
そろっと蒼矢の様子を確認するが、当の本人は眼鏡を外したことによりやや視界が悪いのか、そんな周囲には全く気付いていない。
「…お前、目大丈夫だろうな? 見えてるか?」
「なんとか。少しぼやけますけど」
眼鏡を外したことで、思いがけない別のメリットもあったと影斗は内心ほっとしつつも、蒼矢は野暮くらいが丁度いいのかもしれないと考えを改めることにした。
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