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第10話_遊び人の庭
「どこへ行くんですか?」
「着いてからのお楽しみ」
最初の目的地は、影斗行きつけの屋内遊技場だった。
「…ビリヤードですか」
「やったことあるか?」
「いえ」
「なら良かった」
カウンターで受付を済ませた影斗は、もの珍しそうに場内をキョロキョロと見回す蒼矢の背中に手を置き、道具を持って奥へ向かう。
「あれっ? エイト!」
と、そこへ後ろから声がかかる。何度か影斗と交流のある女子大生二人組だった。
「おー、久し振りっ」
「ほんとしばらくじゃん! どしたの最近」
「結構忙しくてさ。学校とか」
「えー!? あんたがぁ? 信じらんなぁい。らしくないじゃん」
「ひでぇなぁ」
などと軽く会話を交わした後、彼女達の視線は当然影斗の隣に注がれる。
「――で、こっちのコは?」
「かわいー。紹介してよ!」
あけっぴろげに自分へ興味を示す女子二人に、女性と交友経験の乏しい蒼矢は気圧されてしまっているようで、何も言えずに押し黙る。
そんな三人の様子を見て、影斗はニヤッと笑い、やにわに蒼矢の肩を抱き、自分に引き寄せた。
「ああ、彼女」
「えー!?」
「ちょっとピッチ早くなぁい!?」
「……!!」
"女性"と紹介されても全く疑わず、ただ影斗の交際事情にのみ驚きを隠せていない二人を見て、蒼矢は恥ずかしさと憤りの入り混じる表情で影斗を見上げる。
身の危険を感じた影斗は、手早く訂正を入れた。
「…と見せかけて、学校の後輩!」
「あ、そうなの? …え?」
「"学校"って…」
影斗が男子校に通っていることだけは知っている女子大生達は、にやにや笑う影斗を見、ついで恥ずかしげに紅く染めた顔をうつむかせる蒼矢をまじまじと見る。
「…男の子、なの?」
「…はい」
小さく頷く蒼矢の姿に、二人は一時固まっていたが…直後に湧き立った。
「ホントにー!? やばーい!!」
「かわいー!!」
「……!?」
性別が割れてもたいして反応が変わらない女子大生達についていけない蒼矢を置き、確信犯の影斗はその場を離れていく。
「嘘だと思うなら触ってみ。俺飲み物買ってくるわー」
「…えっ…いいの?」
「!? あ、いえ、あの」
「ハグくらいならいいかな!? いいよね!?」
「えっ!? は…はい」
「っ…かわいー!!」
流れでそのまま四人でビリヤードに興じることになり、その後も影斗行きつけの古着屋やアクセサリーショップをのぞき、夕食まで一緒する頃には蒼矢も女子大生達とだいぶ打ち解けていた。
少し歳の離れた女の子のノリの良さに圧倒されつつも、いい刺激になったようだ。
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