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あっという間に時間が過ぎ、影斗と蒼矢は腹と目の保養を満たされた女子大生達と分かれる。
「ソウヤくん、エイトと付き合うのもいいけど、あんまりホイホイついて行っちゃだめだよ?」
「そうそう、エイトいい奴だけど、安全じゃあないからね!」
「おーい、本人目の前にいるよ」
「あははっ、じゃーね!」
「またあそぼっ」
ご満悦のふたりを見送り、影斗が蒼矢へ振り返る。
「さーて、腹も膨れたし。まだ時間大丈夫か?」
「はい」
「OK、じゃ次行くかー」
「今度はどこですか?」
「俺の行きつけのバー」
「…バー?」
影斗の口からサラッと出た単語に、蒼矢は疑いの目で彼を見る。
「先輩、まさか――」
「大丈夫だって、ちゃんとお前用にノンアルもあるから。心配すんな!」
「そういう問題じゃないんですが…」
「置いてくぞー」
蒼矢の疑惑をあっさり受け流し、影斗はさっさと歩きだす。
「おー、エイトじゃん」
と、蒼矢が影斗に追いついたところで、前方から声がかけられた。
影斗が顔を向けると、高校生くらいの若い男が数人、ふたりの行く手をさえぎるように並んでいた。
「! おぉ」
「久し振りー。最近見ないと思ったら、またこの辺で遊んでんの?」
「まーな」
…まずい奴らに出くわしたな…
外面では軽い口調で友好的に対応するが、影斗は内で舌打ちした。
二ケ月くらい前からこの近辺に現れるようになった連中で、人づてだがあまりいい噂を聞かず、"面識がある"程度に抑えて必要以上に接点を作らないように気を配っていた相手だった。
が、グループの中心にいる男は、影斗とさも旧知の間柄のように親しげに話しかけてくる。
「何してたん? 女?」
「いや? 他で遊んでたりとか」
「へー。じゃあご無沙汰記念に、また店紹介してよ。他の奴らには色々教えてるらしいじゃん? 俺らも混ぜてよ」
「んー。じゃまぁ、どこか話通しとくわ」
「頼むぜー」
そんな感じで、適当に話を合わせて追っぱらってしまいたいところだったが、そう一筋縄にはいかなかった。
やはり必然的に、男達の興味は影斗の傍らに移っていく。
「…そっちは? 見ない顔だけど」
視線が集まってきたことに気付いた蒼矢は、先ほどのように影斗に遊ばれるのではと考え、今度は自分からきちんと名乗ろうと口を開きかける。が、寸でで影斗が蒼矢を後ろへ戻すように前に割って入った。
「ああ、ちょっとね。今日はたまたま連れてきただけ」
「ふーん。…あぁ、そういうこと?」
やや不自然な行動をとる影斗に若干眉をひそめたが、何かを察したのか男はすぐににやりと笑う。
「お似合いじゃん。いいねぇ、イケメンは不自由無くて」
「いやいや、そういうんじゃねぇのよ」
「わかってるって…心配すんなよ、とって食ったりしねぇから。さすがに人のものに手出すほど困ってねーよ」
「邪魔して悪かったな。じゃーな、今度飲みに行こうぜ。セッティング宜しく!」
「おー」
意図しない方向ではあるが連中は納得してくれたようで、そのまま影斗達を越して歩き去っていった。
男達の姿が見えなくなったのを確認した後、影斗は息をついて頭をかく。
同じく目で追っていた蒼矢は、沈黙してしまった影斗をいぶかしげに見上げた。
「…先輩?」
「――やっぱ、今日は帰っかー」
「えっ?」
「悪ぃ、気が変わったわ。バーはまた今度にしようぜ」
「…はぁ」
影斗の急なプラン変更に蒼矢は面食らったが、特に異論は無かったので大人しく帰ることにした。
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