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蒼矢の家までふたりで歩いて戻り、髙城宅へ着く頃にはすっかり暗くなっていた。
「送って頂いてありがとうございました」
「おー。だいぶ歩いたから疲れたろ。早く寝ちまえよ」
またも丁寧にお辞儀する蒼矢の仕草に、影斗も満足そうな表情を浮かべる。
「…影斗先輩、今日はありがとうございました」
「もう礼はいいって。送るのは当然だろ、俺から誘ったんだし――」
「いえ、そうではなくて。移動手段に電車を使って頂いてってことです」
「あ?」
話が見えないのか呆けたような返答を返す影斗を見て、蒼矢は目元を少し緩ませると、持論を展開し始める。
「今日行った"先輩の行きつけ"のところは全部、バイクを停められるスペースがありました。直線距離で辿っても、おそらくバイクで巡った方が早く着けそうでしたし…電車と徒歩だとだいぶ遠回りじゃなかったですか?」
「…!」
「…すみません、あまり口に出す話でもないと思ってたんですけど、やっぱりきちんと言っておきたかったし…嬉しかったので」
何も返せず黙ったままの影斗を見上げながら言い、気恥ずかしそうに視線をそらすと、蒼矢は自分の服装にはたと気付いてカーディガンをつまむ。
「これ…借りたままでしたけど」
「! …あぁ、いいよやるよ。どうせ俺もう着れねぇし」
「じゃ、ありがたく頂戴します」
蒼矢は門を開けながら振り返り、ぺこりと頭を下げる。
「今日は楽しかったです。――また明日」
そして頬を染めながら微笑うと、玄関の向こうに消えていった。
影斗はその場に棒立ちしたまま、閉じられたドアをしばらく眺めていた。
ついで、口を押さえながら夜空を見上げた。
自分の顔が、みるみる熱くなっていくのがわかった。
本気で照れてしまっている自分と、こんな些細なことにテンションが上がってしまっている自分に驚いていた。
…――本格的に、やばい。
影斗の中で、蒼矢に対して抑えているものが、少しずつ緩んでいっていた。
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