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鹿野の横でのそっと立ちあがると、影斗は軽く伸びをする。
「出てくるわ。次どこだっけ? 時間割全然わかんねぇ」
「――」
不良生徒の急展開に、鹿野は目を点にし、取りまとめたパンフレットを床にぶちまける。が、すぐ慌てた風に事務デスクのキャビネットを漁り、影斗の前にコピー用紙を突き出した。
「っはいこれ、君のクラスの時間割! 次ココね!!」
「あ、ども」
「ああっ、今日はこれから僕の授業も控えてるからね! 場所はもちろんここの隣――」
「悪いけど鹿野ちんのは出ねぇわ。化学なんざ、学校でやる内容もう全部頭に入ってるし」
「――」
「代わりにコレ、次のセーブポイントまでやっといて」
影斗からゲーム機を投げ渡された鹿野は、しばらく固まったまま彼を見ていたが…そのまま椅子に崩れ落ちた。
「じゃ、頼むぜ。充電勿体ねぇから、セーブしたらちゃんと切っといてね」
化学教諭の悲愴な姿に噴き出しつつ、影斗は準備室のドアを開ける。そして閉じ際に、鹿野へ振り返った。
「…鹿野センセ、いつも色々世話かけて悪いな。あんがと」
そう言うとニヤッと笑い、影斗は姿を消した。
「……」
鹿野は放心の表情で影斗の出ていった扉を見ていたが、深く息を吐き出しながら、椅子にもたれかかった。
「…良い子なんだけどなぁ…ちょっとまだ不安だなぁ。…僕の力不足ですね」
正直なところ、影斗と蒼矢の関係性には危ういものがあった。
本人同士が、ではなく、周りの目が、だ。
この学校において二人のポジションはいわば両極端にあり、普通に考えれば学校生活において接点は無いはずで、会っている姿を目撃されるとどうしても目立ってしまう。
そのことが生徒指導の知るところになれば、二人のどちらにとってもマイナスにしかならない。
…でも…
どういう状況かは計り知れないが、あの不良体と付き合っても主体性を見失わず、逆に相手を更生させつつある鳴り物入りの一年生に、鹿野はひそかに期待をかけていた。
…髙城なら、宮島に大学進学を選ばせ、無事卒業させてくれるかもしれない。
「――何事もなく、このままいい方向に落ち着いてくれればいいんだけど…」
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