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それから数日、影斗は鹿野の薦め通りぼちぼち授業にも出席し、蒼矢との交流も危なげなくこなしていった。
そんな何事もない日が続いていた何気ないある日、ふらふらと廊下を歩いていた影斗の前方から、彼を待っていたかように教員がふたり近付いてきた。
「!」
ひとりは風紀委員会の顧問であり、生徒指導も兼ねているベテラン教員・猿渡で、天敵の登場に早々に気付いた影斗は内で頭を抱える。
そしてその隣に目線を移す。あまり接点がない教員で、誰だったかと素早く記憶を辿らせた。
「…あぁ」
…確か、一年の学年主任か…
運良くすぐに気がついて、思わず小さく声が漏れた。
猿渡らは影斗へ早足で近付くと、若干辺りを見回す。どうやら影斗がひとりになるタイミングを見計らっていたようだ。
「――宮島、ちょっと来なさい」
影斗は素直に従い、三人で手近にあった小さな会議室へ入る。
彼を座らせると、猿渡が対面にどかっと腰かけた。
「…最近は、ちゃんと朝から学校に来ているらしいじゃないか」
「あー、まぁ」
「授業にも何度か出ているようだな。どういう風の吹き回しだ?」
「別になんもないっすよ。そっちにとっても良いことでしょ?」
「…まあそうだな。大いに結構なことだ」
猿渡は若干声を張り上げて噛みしめるように頷くと、傍で控える学年主任から何やら資料を受け取る。
「本題はここからだ。…髙城 蒼矢という一年生は知ってるな?」
「!」
一学年担当の教員が帯同している時点で察しはついていたが、唐突に蒼矢の名前が出たことに影斗は少し動揺し、肯定も否定も出来ずに沈黙する。
が、猿渡はそのわずかな変化を察知し、影斗へ詰めていく。
「隠しても駄目だぞ。こっちには報告が上がってるんだ」
「…知ってるよ」
「入学当初から接触してたのか?」
「…そんな感じ」
どこか投げやりな調子ではあるが素直に返す影斗の返答を聞き、猿渡は深くため息をついた。
「お前っ…うちの生徒内につるんでる奴はいないと思ってたのに…よりにもよってっ…髙城か…っ…!」
そのまま額を押さえながらうなだれる猿渡に代わり、学年主任の教員が影斗に視線をやる。
「宮島、お前から髙城に近付いたんだよな?」
「そうだけど」
「目的は何だ?」
「は?」
「お前のような生徒が、彼に興味を持つ理由を知りたい。…こちらも測りかねている」
「――」
学年主任の思考回路は生徒を預かる教員として当然たるものだったが、影斗に地味に刺さった。
しかし、彼ら相手に本当の理由を言えるはずもなく、適当にごまかすしかなかった。
「…理由なんてないっすよ。ちょっと面白そうだと思っただけ」
「……」
その返答を聞き、学年主任はしばらく沈黙し、腕を組む。
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