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影斗に蒼矢への接触禁止令が言い渡されてから一週間が経った。
「――最近、また授業フケ気味なの?」
薬品の臭いが充満する化学準備室内で、出前にとった親子丼をかき込む鹿野が、窓際でだるそうに携帯をいじっている影斗に声をかける。
「あー…まぁ」
「えーっ、なんでさ? ついこないだまで頑張ってたのにー!」
鹿野は思わず声高に返してしまったが、影斗は彼の方へは顔を向けず、スマホで動画を眺めたままだった。
一応登校はしているものの授業時間フルに居ることはなく、中途半端な時間帯に来て空き教室で暇をつぶしたり、今のように鹿野の元へ来て昼食をねだってそのまま帰ったり、というようなことが続いていた。
ネクタイもいつの間にか再び着けなくなり、まるで数週間前に戻ってしまったかのような影斗の様子に、鹿野は思い切って問いかけていく。
「…髙城とは、最近会ってないの?」
「…あぁ」
「そうなんだ…なんとなくそんな気はしてたよ。…猿渡先生あたりに何か言われた?」
「近付くなって言われた」
「! …そっかぁ…」
…やっぱり手が回ったかー…
鹿野はその予想通りの展開に、息を吐きながら背もたれに身を預けた。
落胆するような鹿野を見、影斗は思うところがあるのか、ぽつぽつと言葉をもらし始める。
「いいんじゃねぇの? これで」
「え?」
「…風紀の言うことはもっともだし、俺だって蒼矢とは釣り合ってないと思ってるし。…そもそも最初に興味本位で近付いちまったのが間違いだったんだよ」
「そんな――」
「なにより、学校の事情はどうでもいいにしても、あいつの邪魔にはなりたくねぇ」
「…それは、本心?」
「こんなこと、飾ったって何もならねぇだろ」
視線は合わさないままだったが、影斗は落ち着いたトーンで心境を吐き出していた。
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