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鹿野が、少し影斗に寄る。
「…言われたことは、髙城は知ってるの?」
「…いや? 猿渡も伝えないって言ってたし」
「え…教えないままなの? 高城の方はそれで大丈夫なの?」
「大丈夫って?」
「だって…その日を境に突然君が会わなくなった訳でしょ? それは、彼の方でも戸惑ってるんじゃない?」
その意見に影斗の視線がちらっと鹿野へ向くが、すぐにそれて手元に落ちる。
「…別にどうも思わねぇだろ。会ってたっつったって、いつも大体俺から近寄ってただけだし、蒼矢から来てたのだって、俺が来いって言ったからだし」
「そうは言ってもさぁ…」
「あいつにとっては、俺も自分に近付く某のひとつだよ。…元々学校には、あいつに興味ある奴なんざ山ほどいるんだし、俺だってそのクチだ。…別に俺でなくても、今度は他の奴らが絡んでくだけで、あいつにとっちゃ何も変わらねぇよ」
手元を見つめたまま、影斗はどこか独り言のようにつらつらと吐露し続けた。
静かに語る彼を鹿野は黙って見守っていたが、小さく息をついて腕を組んだ。
「…そう、かなぁ」
…そうでもないと思うけどなぁ…
直後、影斗はにわかに席を立つ。
「という訳で、帰るわ。飯ごちそーさん」
「え゛っ!?」
彼の言葉に、すっかり冷めてしまった自分の親子丼に視線を移した鹿野は悲痛な表情を浮かべ、ついでさっさと準備室を出ていく影斗に後ろから慌てて声をかけた。
「あっ、ちょっと…ねぇ、頼むから授業出るようにしてよ? ちゃんと卒業しようね!!」
「わーったわーった」
扉を閉めて少し歩くと、影斗はふと立ち止まった。
「……」
鹿野の言った"卒業"という言葉が、急に現実味を帯びて影斗の頭の中に降りかかってきた。
あと一年、こんな状態が続くのだろうか。
続くとしたら…
影斗は足許へ視線を落とし、苦い顔をしながら小さく呟いていた。
「退学しちまった方がいいのかなー…」
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