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第2話_艶やかな新入生
化学準備室を後にした影斗は、さっき通ったばかりの道をぶらぶらと逆に歩き、元来た裏門へ向かっていた。
胸ポケットから煙草とライターを引き抜くと、旨そうに一服目を味わい、上空へと煙を吐き出す。
父親の指示で無理やり入学させられたこの国立高校には全く愛着が無く、高等部三年目という最終学年を迎えた現時点で、始業から放課までまともに通った日数は数えるほどしかなかった。
基本教諭陣は敵だったが、鹿野のように懇意にしている教員もわずかながらいて、彼らの授業にはそれなりに出席しているものの内容は面白くないので、寝るか漫画を読んで過ごしていた。
校内に友人と呼べる生徒はおらず、遊び相手は繁華街をふらついている時に偶然仲良くなった、本名もまともに知らない他校生ばかりだ。
中学生の頃からバイクに興味を持ちだし、やがて二輪免許を取得・念願の一台目を購入して以降は、学校への興味を完全に失っていった。
今の影斗を学校につなぎ止めているものは、鹿野を始めとする影斗に興味を持つ教員との関係性だけだった。
裏門にさしかかったところで、隅に連なる桜の木々の下で記念撮影に興じている人波が目についた。
影斗は反射的に彼らの視界から外れるように迂回し、鉢合わせにならないように裏門を目指す。
…面倒くせぇけど、見られたら後で絶対呼び出し喰らうからな…
天敵の風紀委員顧問の顔を脳裏に浮かべつつ、煙草を携帯灰皿へ押しつけたところである。
「…!」
桜をバックにしきりにシャッターを切る烏合の衆と影斗の間を、生徒が一人通り過ぎた。
もちろん影斗には気付かず、そのまま平行して突っ切るように逆方向へスタスタと歩き去っていく。
影斗は目を見開いたままその生徒の姿を追い、振り返った姿で固まり、徐々に小さくなっていく後ろ姿を凝視する。
影斗はしばらく立ち尽くしていたが…次の瞬間、柄にもなく駆けだしていた。
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