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第13話_少なからぬ心の揺れ
それからまた数日が経ったある日の夕方、自宅最寄り駅改札から歩いて出てきた烈は、やや遠くの前方をブレザー姿の見知ったシルエットが歩いていることに気付き、駆け足で近付いていく。
「蒼矢ー!」
またしても大声で呼びかけ、振り返った蒼矢へ手を振りながら辿り着く。
ニッと笑う烈へ黙ったまま視線を投げていた蒼矢は、再び向き直って歩き続け、烈も隣について並んで帰路につく。
「今日は割かし早いんだな! 委員会は無ぇのか?」
「…あぁ」
「そっか! …あ、聞いてよ! 俺のチャリ今朝パンクしちゃってて、朝から学校までマラソンでさぁ。昼飯なんて全然足りる訳ねぇじゃん? 帰りは友達に頼み込んで金貸してもらって電車乗ってきたけど、もー腹減って腹減って…」
一方的にハイテンションで話し続けていた烈だったが、ふと何かに気付いたのか、蒼矢へぱっと顔を向ける。
「!? …なんかお前、食い物持ってんじゃねぇか…!? 米の匂いがする!!」
「? ちょっとやめろよ…」
鼻をヒクつかせながら蒼矢の身体に顔を近付けてくる烈に、動揺した蒼矢は咄嗟に通学バッグを胸に抱える。
そのバッグを鼻で探った烈は、屈んだ姿勢のまま蒼矢へ真剣な眼差しを向けた。
「ここに、何か、入ってる!」
「…! あぁ」
そう問いただされ、蒼矢は思い当たるものに気付いてバッグを開ける。
そして手に出された四角いものに烈は一瞬呆けた後、驚きの表情に変わる。
「…え…弁当!?」
ポリ袋に煩雑に包まれたタッパーからは確かに弁当らしき匂いがし、烈は目を丸くしながらタッパーと蒼矢の顔を交互に見比べた。
「これ…まさかお前が作ったとか?」
「うん」
「まじかよ、どうしたよ!? …開けてもいい?」
幼馴染の信じ難い行動にますます動揺する烈は、蒼矢の了承を得ておそるおそるその蓋を開け、隙間から中を覗き込む。
…途端、中身に目を向けたまま固まった。
「…おい、食ってねぇじゃん――」
眉をひそめながら顔をあげると、蒼矢は烈からも箸をつけてない弁当からも視線を外したままうつむいていた。
前髪の間から見えたその泣きそうな表情に、烈は言葉が詰まる。
「……何かあったのか…?」
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