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第3話_巻き込み型マイペース
次の日も、影斗は始業だいぶ前から登校した。
ルートはいつも通り敷地内の端を伝っていったが、足取りはいつもより軽やかに、化学準備室へ向かう。
「おや! 今日も早いんだねぇ。優秀優秀」
「鹿野ちんさぁ、何時に来てんの? ここ泊まってんの?」
「まさか。でも、ここがセカンドハウスなのは間違いないね。僕、毎朝五分で家出てるから。モーニングルーティーンはここから始まりますね」
鹿野は影斗の前にコーヒーを置き、にやにやしながら頬杖をつく。
「…君さぁ、昨日の式見てたでしょ」
「あぁ」
一口飲んでから、影斗は別段気にする風もなく返答する。
「俺、見えてた?」
「多分気付いてたの僕だけだけどね。他の先生は気付かなくても、僕の目はごまかせませんよ?」
「いや、ごまかしてたつもりはねぇんだけど…」
影斗は自分のビジュアルを鑑みた上にネクタイも手元になかったため参列は諦め、式の行われる講堂へ先んじて侵入し、二階席の端から眺めていたのだ。
自分の意に反して言い訳がましくなってくるので、それ以上は言い返さなかった。
「新入生の挨拶見た? 例年に無い、なんだか異様な雰囲気だったよ…保護者席のざわつき具合がハンパなかったね」
鹿野は興奮を抑えきれないといった風に語り続ける。
「いやぁ…髙城君、すごかったね。いつもなら本番に近い状態でみっちり練習するところを、数日前のリハ一回だけのほぼぶっつけだったのに、落ち着いてたよね。所作も完璧過ぎて、僕彼のダブルスコアなのに思わず尊敬しそうになっちゃったよ」
「だな。俺もすげぇと思ったよ」
「…あとさぁ…彼、すっごい美人だよね。君みたいなイケメンって感じではないんだけど、なんか性別がわかんなくなっちゃうくらい綺麗なんだよねぇ。リハで見た段階で、僕見惚れちゃってさぁ。…生徒達みんな湧き立ってたよね」
「あぁ、あのレベルは女でもそうはいねぇな」
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