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「うわっ!」
俺は驚いて、事務室に戻った。
なにしろ、この医院は昭和20年代に建造された古い洋館である。
戦後間もなく俺の爺さんが内科医院を開業する際に建てたもので、北海道軟石を積み上げた建造物なので風情があっていいと、現在まで内部だけ何度もリフォームしながら使用している。
「か・・・母さん・・・廊下に誰かいる!」
「誰かって?」
母は相変わらず
『クルッ・・キュルル・・クルッ・・キュルル』
と上海ゲームに夢中になっている。
「廊下の奥に誰か若い女がいるんだ・・・」
「あら? まだ帰ってない看護師いた?」
「違うよ・・・何となく幽霊っぽい・・」
母は、俺の方を振り向いて
「いい歳して何言ってんの?」
と、バカにしたような目で見た。
「廊下に出てみろよ・・・」
と、俺が言った時、急に事務室の照明がフッと消えた。
背筋にゾッと悪寒が走る。
「どなた?」
母が入口の方を見て声をかけた。
振り返ると、さっきの若い女の幽霊がうっすらと暗闇に浮かび上がっている。
俺は正直、びびった。
女の幽霊は半透明で、足は見えなかった。
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