うげ~っ!

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母の厳しい言葉に、身も蓋もなくなったのか、幽霊の白井ユミは、急にシクシクと泣き始めた。 「おやめなさい、泣くのは!泣いたって問題は何一つ解決しません。ユミちゃん。今の時代、女の子だって泣き落としは通用しないの。言いたいことがあるなら、ハッキリと論理的に説明しなさい。泣いてうやむやにするのは一番ダメ!泣いたらスッキリするなんて言う人がいるけれど、それは論理的な思考回路が発達してない乳幼児程度の意識レベルしか持ち合わせていない特殊事例の場合。知的な人間は、泣いて問題をうやむやにしたところで、必ずまた同じ問題に直面する。いつまでも心がスッキリしないのは、問題をしっかり根本から解決していないからよ。ユミちゃんは、自分の不幸を人のせいにしているようだけど、そういう逃げの気持ちでは永遠に問題は解決しないわ。世の中には自分がどんなに努力しても解決できない問題だってある。だからと言って、それを人のせいにするのはどうかしら?あなたが病気になったのは、誰かのせいかしら?あなたの病気が治らないのは誰かのせいかしら?親が悪い?医者が悪い?薬剤師が悪い?看護師が悪い?あなたの生まれた時代が悪い?それとも国が悪い?自分の辛さを、周りのせいにしたら、あなたの辛さは減るの?なくなるの?人を恨んで、誰がどんな得をするの?あなたは恨み続けることで幸せになれるの?どう思う?よく考えてごらんなさい。」 ぅげげ~っ! 横で聞いていて俺は、幽霊のユミちゃんが気の毒になる。 ユミちゃんは、さすがにうんざりしたのかスーッと消えかけた。 母は、説教を再開する。 「卑怯よ、ユミちゃん!ちょっと都合が悪くなったら姿を消そうだなんて。それこそ問題の先送り。今の国会といっしょだわ。ダメよ、逃げないでしっかり自分に向き合いなさい。私だって一日働いて疲れている。時間外なのに、あなたが辛いかと思って真剣に向き合っているんですから。ユミちゃんが来なかったら、今頃、私も息子も家に帰って夕食を済ませ、お風呂に入ってゆっくりできるはずでしょう? こんな遅い時間に不法侵入しておいて、ちょっと都合が悪くなったら消えるなんて、そんな身勝手、私は許しません。ユミちゃん。もう一度、質問します。あなたは何を求めて、ここへ来たのですか?」 幽霊のユミちゃんは、消えかけた体を、また少し強くボーッと青白く浮き上がらせて、俺の顔をジーッと見つめた。 俺に助けを求めているらしかったが、はっきり言って、俺自身、母の説教に太刀打ちできるだけの技量を持ち合わせてはいない。 やがて、いくら俺を見つめても頼れないと判断したのか、ユミちゃんはションボリとうつむいて 「しあわせになりたかったんです・・・」 と・・・蚊の鳴くような小さな声で、そう言った。 「あなたの考えるとは?どんな状態を指すの?具体的に言ってごらんなさい。」 母は相変わらず攻撃の手をゆるめない。 「普通に恋をして結婚して子どもを産み育てて平和な生活を送りたかった・・・」 ユミちゃんは遠くを見つめるような目をして、そう言った。 「それが、あなたの考えるなの? ふぅ~っ・・・」 母は、あきれた顔でため息をついた。 それから長い長~~~~い母の説教は、いよいよ凄まじい迫力で饒舌(じょうぜつ)(やいば)を振りかざし始めた。
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