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次の朝、目覚めると美味そうな味噌汁の匂いがした。
俺は驚いて台所へ行く。
昭和24年に死んだ女がクッキングヒーターを使用できるのか?
耳元でユミがささやく。
「ごめんなさい。勝手に冷蔵庫にあった食材で朝ごはんを用意させていただきました。」
「謝ることはないけど、ヒーターの使い方よくわかったな?」
「ええ。お母様が料理するところを長年、観察していました。冴月先生が好きな料理を覚えたいと思って・・・」
「マジ?じゃあ、俺が朝ごはんを食べてないことは知らないの?」
「知っています。お一人ですから朝ごはんの用意をなさるのは大変ですもの。でも、もし気が向いたら召し上がっていただければと・・・私が先生のそばにいられるのは今日と明日だけですので。」
俺は、幽霊のユミが作ったワカメとネギの味噌汁をすすってみた。
「美味いな!」
「キャベツとキュウリの一夜漬けもあります。ご飯も炊けています。よろしければ他にも何か作りましょうか?」
「そんな半透明の体で、よく料理できるな。」
「ええ。念の力で物理的なエネルギーを発生させることは可能です。」
「ほう? じゃ、俺はシャワー浴びてくるから朝ごはんの用意してくれ。そうだな、冷凍庫に鮭の切り身があるから一切れ焼いて。おかずは 鮭と一夜漬けでいい。」
俺は不思議な気持ちでシャワーを浴びた。
明るい朝の光の中ではユミの姿は見えない。
けれど、シャワーを終えて食卓を見ると朝食が並んでいた。
ビバルディの『四季』~春~が静かなBGMとして流れている。
「いただきます!うん、美味い。ユミは食べないのか?」
「ええ。残念ながら私は食べたり飲んだりできません。体がありませんから。」
「今日と明日、ユミはどんなことがしたい?」
「冴月先生のお手伝いができたら嬉しいです。」
「手伝い?そうだな・・・じゃ、裏の小屋の壁のペンキ塗りはどう?ユミだったら高いところも平気で届くだろう?」
「まあ、嬉しい。やってみたい。手も汚れないですし。私にピッタリの仕事です。」
こうして俺と幽霊のユミは、意外にも楽しく快適な二日間を過ごした。
日曜の夜、寝る前に俺は部屋の照明を消してユミの姿を確認した。
ユミは部屋の隅にボーッと浮かび上がり不安そうに俺を見ていた。
「こっちへおいで。ユミ。俺の腕の中へ。いつまでも俺のそばにいてほしい。明日も、明後日も、これから先ずっと。お願いします。」
「冴月先生。本当に?」
「本当だよ。ユミは俺のステキな恋人だ。」
「嬉しい。」
ユミは俺の胸に顔を埋めて泣いた。
俺は、我ながら不思議なくらい満ち足りた気持ちだった。
ユミが24時間そばにいても、生身の人間と違い鬱陶しさを感じない。
それどころか、まるで神様に見守られているような安らぎを感じるのだ。
何より、俺の母の説教に耐え抜ける根性の持ち主なんて、世界中探したって、そうそうはいないだろう。
幽霊の恋人は最高!
ユミ、愛してるよ!
完
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