彼の記憶の破片

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 彼はダリアの様子には気づかないようで、自分の見ていた本を彼女に向かって広げてみせた。 「これは、『城』と書いてあるのか?」  彼女は気持ちを切り替えてから本の開かれたページを覗き込むと、確かに彼の指し示す言葉は『城』だった。 「そうよ。人間からしたら古い文字かもしれないけど、私たちの一族では今でも使う者もいるわ」  彼は小さく「そうか」と呟き、本を見つめて続けた。 「…なんだ…?この本自体は馴染み深いものではない気はするが…。ダリア、この本は何の本だ?この単語だけではない。このページの単語ほとんどに、俺は見覚えがある」  ダリアは驚いた。  彼が手に取ったのは、混血魔族の歴史が書かれた書物。  たとえ普通の人間であっても、こんな何冊もないものを手にする機会など、あるはずがない。 「…なぜあんたが、混血魔族の歴史が書かれている本なんて…」 「歴史だと…!?」  呆然とする彼女の方に、本を見ていた彼は激しく振り返る。 そして本の開かれたページを口にする。 「『城』『移す』…それから、『魔』の『国』…」 「…合っているわ…そのページに書かれているのは、『城は移され、魔国の歴史は新たな…』。普通の人族だって、混血魔族に伝えられてきた歴史書なんてそんな簡単には手にしないはずよ…それを一体どうしてあんたが…」
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