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「なにこれ」
「くびれ死んだやつ。こいつは1万人めのキリ番踏んだやつね。結構な美人だったけど惜しいよねえ。こんなになったら男か女かもわからない」
「こんなになっちゃうんだ」
「腐って結局地面に染み込むわけで、それが結局根から吸い上げられ……」
「いや。でも。でも」
男は声を途中で遮った。
「死んでしまえば俺は死後の姿をみることはない。もうガタガタ言わないでくれ」
桜が口をひらく前に男は枝にロープを巻きつけた。あとは首を通してぶらさがればいい。根から吸い上げられた俺は花になる。オールオッケー。男はロープの輪に首を通した。
「おい、カワグチシロウ。よせ、やめろ」
上から声が降ってきた。なんで俺の名前を……。男は上を向いた。
頭上には無数の桜の花があり、そのひとつひとつに顔がある。無数の口が一斉に動いた。
「上もいっぱいなんだよ」
うわあああああああ
男の絶叫がこだました。
「あ」「ああ」「あー」「あら」
無数の口が異口同音に小さく叫んだ。そのせいで、風もないのにざわざわと満開の桜が揺れた。
男もゆらゆらと揺れた。
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