羊は柵を越える

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 ▽▽▽ テーブルから半分皿がはみ出している料理もある。 肉や魚、果物にケーキ。 頼めるものを取り敢えずで全部頼んだ感じだ。  いや、感じではない。実際そうなのだ。 師匠は羊の魂がくべられたランタンをつついている。 しかもニヤニヤしながらだ。不気味だ。 「俺、答えはわからないと言ったんですよ?」 「それがもう立派な答えじゃないか」 「はあ」 宿屋に戻ると、すぐに羊から得た感情を師匠に話した。 黙って聞いてくれていたが、話し終わると頭を撫でくり回してきた。 祝いだ何だと称してたくさん注文した。 そして今に至る。 「まだまだ一人前には程遠いが命々屋としては一歩近づいたな、チコ」 「はあ」 どうしても生返事になってしまう。 こんなに喜ばれるとは思わなかった。 俺の気持ちに嘘偽りはないが、それが命々屋に向いているかと問われれば唸ってしまう。 「納得がいかないって顔だな」 「それはまあ」 「いいか、チコ。命に触れる者としての最低ラインは命を知ろうとすることだ。おまえは知ろうとした。この羊のランタンがその証拠だ」 何となく気恥ずかしくなってうつむく。 「と、とにかく!俺はまだまだだと知りました。これからも師匠の教えを乞いたいので破門にしないでください!」 師匠からの反応がない。ゆっくりと顔をあげた。 「師匠!」 脂汗をかいて、表情を歪めている。 剣による傷だ!風邪だって! あまりにも普通にしているものだからと、よく傷口を確かめもせずにいた。 「今すぐ病院に行きましょう!」 俺は師匠の肩を掴むと、支え合うようにして宿屋をあとにした。
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