羊は柵を越える

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自分でも歩くのが大変なのか、足を引きずるようにしている。 「すぐに診てもらいましょうね」 「なあ、チコ」 「何ですか?」 「明日も一人で平気か?」 「はい。師匠は傷口を手当てしてもらって、宿屋で休んでいてくださいね」 病院はどこだ。早く診てもらわなければ。 師匠の身体が熱い。 「なあ、チコ」 「今は話さない方がいいですよ!」 「これから先もずっと一人でも平気か?」 「な、にを言っているんですか。縁起でもない」 「チコ……」 「余計なことを言ったら、俺、怒りますよ!」 「チコ…。なあ、チコ。数えた羊はどこへ行くんだろうなあ」 ガクンッと重くなる。 俺は歯を食いしばって歩いた。 ▽▽▽ ようやくのこと病院を見つけたときには、師匠は意識がなくなっていた。 俺は備えつけられた長椅子に座り、貧乏揺すりをしている。 カチャリ、とドアが開く。 視線をそちらに向ける。 勢いよく立つと、医者の前まで小走りで近づいた。 「この度はお悔やみを申しあげます」 「え…」 「手を尽くしたのですが、先ほど亡くなりました」 「嘘だ!さっきまで笑っていたんだ!テーブルいっぱいに料理を並べて、お祝いしてくれた!元気だったんだ!」   師匠のケガは俺のせいだ。 俺がしっかりとしていれば避けられた傷だ。 俺が悪いんだ。俺はーー。 両手を見た。なんて無力なんだ。 この心の中に燻っている黒い感情をどうしたらいい? 師匠は俺のせいで死んだんだ。
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