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「ねえ、あんたは医者じゃないか?もっとちゃんと見てくれたって!」
襟首を掴み揺らす。
「とても深い傷でした。熱も拍車をかけていました。早くにきていたとしてもーー」
「言うな!それ以上先は言わないで…」
医者の瞳に映る自分。それを見て襟首から手を離した。
俺はその表情を知っている。
命々屋をしていてランタンを届けるたびに見てきた。
ぶつけても仕方ない相手に怒りをぶちまける。
そして癒されることなく絶望する。
そんな表情だ。
もしかしたら、俺たちに怒りをぶつけた人たちの中にも己への怒りを抱えきれなくなって目の前にいる人に……っていたのかな。
こんな形で、その〝もしかしたら〟なんて知りたくなかった。
俺は天井を見上げる。
ありったけの声で叫んだ。
医者は止めなかった。
▽▽▽
「金ならやるからさっさと出ていきな!死神!」
いつものようにランタンを届ける。
届けた先で心の内をさらけ出すご老人。
彼の言葉を最後まで聞いたところでお金を投げつけられた。
身体にぶつかり地面に落ちるそれ。静かに拾う。
お辞儀をして家をあとにした。
あとまだ二軒残っている。
命々屋としての役割を終えると宿屋に寄った。
次の戦場に行くのは、明日以降になる。
テーブルの上に小さなランタンを二つ並べる。
小さなランタンで本来ならば夜道を照らすものだ。
一つは羊の。もう一つはーー。
俺は師匠みたいに色判断はできない。
かわりに、亡骸に〝おやすみなさい。いい夢を〟と声をかけるようになった。
せめて、亡くなったあとにまで悪夢のような世界にいませんように。
二つのランタンにそれぞれの手で触れる。
白いそれらが優しく揺れている。
「おやすみなさい。いい夢を」
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