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「それで代金の方で……ふがっ」
師匠の手が伸びてきて、俺の口を塞ぐ。
「あんたの言う通りだ」
また始まった。内心、ため息を吐きながら毎度お馴染みのやり取りが始まるのを見守ることにした。
「俺たちがもう少し早く戦場についていたならば、負傷した息子さんの手当てをできたかもしれない」
「そっ、そうだよ!この死神が!」
「ランタンの色が緑だろう?俺は色判断ができる。緑は喧嘩ができない平和主義者を表す。あんたの息子さんは戦に不向きな性格をしていたんだな」
師匠の言葉に婦人は口元を押さえて嗚咽を漏らす。
「それでもあんたたち家族を守るために頑張ったんだな。緑は安らぎも表す。最期が安らかだったことを祈るよ」
「金はそこの棚にあるよ。さっさと出ていっておくれ…」
力なく言う婦人の肩を軽く叩くと、師匠は代金も貰わずに出ていってしまった。
慌てて棚の上にあったお金を掴むとあとを追った。
暫く歩いたあと、師匠は急に立ち止まった。
危うくぶつかりそうになる。
「何か言いたいことがあるんだろう?」
背を向けたまま問いかけてきた。
「何で毎回、無意味なことをするんですか?」
「無意味か」
「無意味でしょう。俺たちの仕事はランタンを届けて、代金を貰うだけのはずです」
「それだけじゃないんだよな。命々屋は行き場のない怒りを受けるところまでが〝できること〟だと思うぜ」
「偽善です。それに自己満足です」
「容赦ないな」
「事実ですから」
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