羊は柵を越える

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「死神が!俺の仲間をどこに連れていく!」 怒声に顔をあげると、戦場に駆り出されていたとおぼしき男が立っていた。 その手には剣が握られている。 刃先が自分に向けられている。冷や汗が出てきた。 「この度はお悔やみを申しあげます」 「どこに連れていくのかを聞いているんだ!そいつはまだ死んでいない。新婚なんだ!嫁さんのところに帰るんだよ!」 「はい。ですから、こうして帰すところです」 「ふざけるな!死にたかる金の亡者が!」 男は怒り狂っている。 俺めがけて剣を振り下ろした。 殺される。咄嗟に目をつむる。 逃げるより先に目をつむってしまったことを後悔する。 切られたらやっぱり痛いんだろうな。そんなことを思う。 「あ、ああ…」 男の弱々しい声がする。 まぶたをそっと開けると、視界いっぱいに師匠の顔が映った。 「師匠?!」 男の剣先は赤く染まっている。まさかそれで。 師匠の背中に恐る恐る触れた。 「いっ…」 師匠は小さく呻く。指先にぬめりけを感じた。 「死神が悪いんだ。俺の大切なダチを連れて行こうとするから。俺たちは生きて村に帰るんだ。約束したんだ」 ブツブツと呟いている。 「うわあああっ!」 俺はそいつに殴りかかった。 拳に鈍い痛みがひろがる。 「よくも貴様ーっ」 「っ!」 さらに掴みかかろうとしたところで肩をおさえられた。 見ればそこに師匠がいる。 肩に食い込む指が思いの外、痛い。
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